見出し画像

冷たい雨の降る夜に

まるで寒さに震える「アギ」のようであった。

雨が激しく地面を叩き、外の空気が異様に冷たい十月の夜のことであった。

一人の少女が門の前に座り込んでいるのを、警備のマルコスが発見して連絡をしてきたのだ。

少女の全身はずぶ濡れとなっており、白いワンピースからは、微かに血色を残した肌が透けて見えていた。

少女は黙って俯いていたが、身体はガタガタと震えていた。

気の毒になった私は少女を屋敷へと入れた。
メイドのリッカスに直ぐ様、風呂を入れるように命じ、食事も用意させた。

風呂が沸くまでの間、私は少女に様々な問い掛けをした。
名前は、年齢は、出身は、何故門の前にいたのか、そういった問いに少女は淡々と答えていった。

少女の名前はカルタ。
歳は十二。
出身はAアパートメント第三特別室。
門の前にいた理由は、家を追い出されたから……。

カルタの「仕事」について訪ねようとした時に、丁度風呂が沸いたので、カルタを風呂へと通した。

入れ替わる形で応接間へリッカスが入り、私に訪ねる。

「彼女は、如何でしょうか。」

私はリッカスに、カルタは「ヒ族」であることを伝えると、リッカスは物悲しそうな顔で首を横に振った。

「ヒ族である以上、ギ族特級の我々と共にいることはできん。これは仕方がないことだ。彼女には、非常に申し訳ないのだが……。」

私はそこで口を噤んだ。

民法の改正により、今までギ族とヒ族の間に曖昧に引かれたいた線引きがハッキリとなった。
ギ族と住居を共にすることはもとより、ギ族との間に雇用関係を結ぶことすら、今の法律では難しい。

私にはポルテがいなかった。
我が一族に代々伝わる呪いと言ってもよいであろう。

もし、この少女が私のポルテとなってくれたのなら……、
カルタを門の前で見つけた時の、そういった淡い期待は脆く崩れ落ちた。

実際、ヒ族がポルテになるケースは珍しくない。(というよりも、ヒ族は元来、ポルテに適した骨格と感度を持ち合わせている。)
しかし、法律の壁というのが、私の邪魔をする。
何故、我が一族はこうも神様に嫌われているのか。
そっと天を仰ぐと、応接間の扉をノックする音が聞こえた。

私はカルタに悟られぬように、茶をグッと飲み干すと、ハンカチで目頭を拭った。


翌朝、カルタには事情を説明して、屋敷を出て行ってもらった。
何度も頭を下げるカルタの顔には相変わらず「表情」といったものが感じられなかった。

突然の不条理に直面し、現実を受け入れるにはあまりにも若すぎる年齢である。
私は胸が張り裂けそうになった。
きっと、カルタはまた、別の屋敷の前に現れのであろう。


屋敷の中へと戻ると、アギがこちらを見つめながら大量の糞尿を撒き散らしていた。
私が嫌そうな顔をすると「ウィッス」みたいに会釈してみせたアギにちょっといらっときたのであった。


ベレス  エル  デモーレ  カルタ
アム  ゼム  ヒア  アギ  デル  カルタ
闇夜に雨は降り、朝日を浴びて草木は芽吹く



何これ?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?