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行ったこともない合法風俗~割烹着サロンM~

寝台の上で私に跨がる嬢の首もとには、潔いくらいにそのまんま「ぐ~チョコランタンのスプーのラッパ」が彫られておりました故、何だか心配になってしまい、
「これ。大丈夫なんですか。権利とか。受信料とか。」
と素直に問うてみますに、
嬢はニカリと、細かすぎるビッシリ歯(ビッシリパ)を剥き出して笑い、
「あんたには関係ないじゃろ。嫁か。」
と私の頬をしこたまに張ってきやがりましたのです。

飛龍革命の時だって、もう少しマシな張り手だった筈、と私は激昂し、嬢に思い切り張り返すと、細かいビッシリ歯(ビッシリパ)がバラバラと音を立てて、床へと散らばりました。

いやはや、これは失敬。と歯を一つ一つ、丁寧に拾い上げておりますと、嬢は私の耳元に口だけをニュウと近付け、
「星の数だけ、抱き締めて」
と呟いた、とのことなのですが、歯が抜けている為、どうにも何を仰られていたのか、ワカラナイ。

てっきり唐突な新聞の勧誘かなんかかと思ひまして、
「ウチは間に合っております。」
とやんわりと、しかし、自分は強く持ち、峰竜太のような凛々しさでお断りをしたのでございました。

その時、残り時間を告げる為に、黒スーツの男が部屋に入ってきて、「残り十五分」と書かれたカンペを私の目の前に近付けてきたのです。

毎度思うのですが、どうして、この手の男たちは人を小馬鹿にしたような態度を取るのだろうか。

客が居なければ、商売は成り立たないのに、こんな態度は、その客を見す見す逃すことに繋がると言うことを、彼らは知らないのであろうか。

鮭は、川から海に渡る過程で、甘味が増すと言う。
それは、川と海とで、生息している微生物に違いがあるからなのだ。

この店が大海であるならば、川より下ってきた我々鮭の身は果たしてどうなっているのだろうか。

カンペが私の頭にコツンと当たる。
まったく、客との距離感も掴めていない。
「やはり、鮭ですね。そのまんま鮭。」
私がそう言い、黒スーツを見ると、ギクリとしたように、顔を歪め、そのまま顔のパーツがドサドサと音を立てて崩れ落ちたのでありました。

歯は一本だけ、どうしても見当たらなかったのですが、嬢は許してくれました。

家に帰り、アイボンで目を洗っていると、なんと見つからなかった歯が、カップの水面に浮いているではありませんか。

「なんだ、いつの間に。」

こうして、「私から」歯が見つかったと言うことは、またあの店に行かなければならない、ということになるではありませんか。

客を逃した、なんて浅はかな考えでありました。
私はあの店にしっかりと捕まえられておる。
そんな商売の仕組みを知った、秋の夜でありました。

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