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日本公開のタイミングが悲劇的な良作「コンクリート・ユートピア」

韓国映画の話題作「コンクリート・ユートピア」が面白く且つ感情が暴走する系作品だったので思ったこと書いてみる

ザクっとあらすじ
未曾有の大災害に見舞われた韓国・ソウル。地面は浮き上がり、川は干上がり、ビル群は倒壊する中、一棟のマンションは倒れなかった。
極寒のソウルでマンション住民と外の人々との闘いが始まる。。。

感想
ディザスターものながら災害にどう立ち向かうかという点ではなく、マンションを中心とした人々の人間模様を描いた作品で、住人たちの人間関係だけでなく極限状態で発生する争いや差別が描かれた良作だったんじゃないかと思う。

不運な公開タイミング
劇場で鑑賞するも1/1の能登半島地震から1週間しか経っていない事もあり、観客はやや少なめに感じた。
客の年齢層は若者が集中し、女性が多めだった。
(主演俳優のパクソジュンの影響と思われ)
公式HPでも地震的表現に対する警告文があり、良作ではあるものの日本公開に関してはタイミングが悪すぎたと思う。
口コミなどで巻き返す可能性はあるが、今回の公開で大バズすることはなさそう。

物語を狂わせていく怪人物ヨンタク代表
当作品の魅力といえば、イ・ビョンホンが演じるヨンタク代表だろう。初登場時から他とは違う空気感を醸し出していた。
序盤の控えめな姿勢がだんだん狂気に満ちていく様子は見どころ満載だった。マンションを狂気の世界に変えた張本人だが、彼も震災前までは普通の人。ただ追い詰められると何をしでかすか分からない狂気の下地がある実にいいキャラクターだった。
彼の心情はかなり丁寧に描かれていたこともあり、殺人も厭わないイカれた行動に対しても「仕方ないよね・・・」と思わされてしまった。彼は作品を通して終始、マンションと住民のために最善の行動を取ろうとしているだけなのだから。

最初はこそっとミカンを食べてたのに、中盤はこの表情。かっこいい

もう一人のイカれた登場人物。ヒロインのミョンファ
ヒロインの元看護師の新妻ミョンファはこのイカれた世界で正気を保つ光のような存在。のように見えるが、実際はヨンタク代表に負けず劣らずのイカれたキャラクターだったと思う。住民ではない子供を匿ったり、防犯(この作品では略奪行為を含む)に反対したりと聖女的な面が目立つ彼女。優しさだけでなくヨンタク代表の黒すぎる過去も暴くなど行動的な面も目立つが、その愚直な正義感は代表並みに色々な人の運命を歪ませる。
夫ミンソンに守られている状態で、自らが思う善行を行い続けるが、その影響でさまざまな人が不幸になっていく。
彼女の価値観は観衆(極限状態でない我々)と同じ道徳心をもっているため観衆からは共感を得やすいが、住民以外の人間を「ゴキブリ」と罵るイカれた世界では暴力的なヨンタク以上に狂っている用に見えた。

悲劇の男ミンソン
ヨンタク代表と妻のミョンファの間で挟まれ続けたミンソンはこの作品で最も可哀相なキャラクターだったと思う。「安定」や「平穏」を求める青年でこの世界の中でも妻を守るために安定を求めて暴力の世界に進んでいく。
そんな思いも妻には届かず、生き方を軽蔑される上に、ミョンファは行動のせいでヨンタクに目をつけられる。フォローするも妻はまた暴走。

悲劇の青年ミンソン(左)と愚直な悪女ミョンファ(右)

「あのマンションじゃ人を食ってるらしいぜ」
個人的に面白かったポイントの一つがマンション住民と外の住民の間で行われていた噂話。
マンション住民は外の人々(ゴキブリ)に対して「奴らは人を食う」と風潮し、外の住民も「マンションの住民はおびき寄せた人間を食う」などと話し合っていた。
実際のところは双方ワンちゃんは食べても食人を行ってる様子はなかった。(終盤登場した男性は食人を行ってたような感じでしたが)
このような敵対するグループを「食人」や「ゴキブリ」という風に呼称し、獣に落とす行為は以前読んだ食人部族の真実に書かれた内容と類似していて興味深かった。
中世のアメリカ大陸では冒険家が食人部族の逸話をよく聞き、そのような話をヨーロッパで広めたことで「食人部族」というものが世界に広がった。
しかし、人食い部族の話は増えても実際に食人部族に遭遇した根拠のある事例はほぼなかったそうだ。
ここからは学説だが、実際には食人部族などは存在せず、先住民が敵対する部族のことを冒険家に「食人部族」と風潮したためとも考えられている。
彼らは敵対部族と言語も文化も見た目も同じであるがゆえに、相手を殺し略奪する大義名分を得るために食人部族と考え、敵を人間以下の存在に貶めていたのではないかと考えられる。
同じ韓国人同士で差別をし合う様子を強調して描いたシーンだが、韓国人同士の差別や見下しは震災前や直後等の余裕がある頃にも見ることができた。
非現実的なシーンではあるが、社会問題を描いたシーンだったのかなとも考えれた。

ラストシーンについて
最後のシーンではミンソンが息を引き取ったあとに別の集落の住民に助けられたミョンファ。彼らに連れられた場所はミョンファが理想とするような全ての人が助け合いながら生活する場所だった。
ミョンファアンチの僕としては、「なんでこいつだけ・・・」という気持ちも強いが、最後の「みんな普通の人でした」発言が良かったので許してしんぜよう。
ヨンタク代表もミンソンもミョンファも普通の人達だった。みんなそれぞれ考え方もあるが、お互いを尊重し合うように生きている。ただ今作のように極限の状態に陥ると自分たちの信念が大きくなっていき、普通の人の枠を超えてしまってお互いを尊重できなくなってしまうのかもしれない。
そんなことを感じた作品だった。
最後にミョンファは苦しみながらも救われたようなEDだったが、実は最後の集落は人食い集落でミョンファを回収し、寝床や食料を与えたのは彼女を食すため?なんてZ級ホラーなオチを思いついたところで今回の感想は終わろうと思う。

CSアンテナを盾にするのがNICE

残念だったポイント「災害描写が残念すぎる」
災害大国の日本人からすると災害の様子の稚拙さが目立ったように感じた。
具体的に言うとバイオレンス・ジャックの関東地獄地震のような災害なのに、余震がない。室内荒れてない。津波がない。なぜか枯れる川などご都合災害にはちょっと引っかかってしまった。あと津波のような地割れを高級車では生き残れないと思う。
あとは特徴的な地割れを「ゴジラのような怪獣が通った後みたい」と表現する人がいたが、ゴジラはそんなことはしない。
なぜならゴジラは地上に上がって街を壊すからこそノスタルジーがあるのであって義務教育を終えた怪獣なら地中を這って街を壊すような下品なことはしない。

バイオレンス・ジャックの関東地獄地震(名前がたまらなく大好き。ビルが90度傾く)


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