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30. 小説MCH - フレア「スリースターズ参上」(修正ver.3 2024/4/20)

 ——— ザッ、ザッ、ザッ

 その時頭上から、几帳面にそろった足並みで、小気味のいいリズムを刻んだ3つの足音が、フレアを崖下に見下ろすように上から目線で響いてきた。

「ワカード参上!」

「チャゲッツ参上!」

「メア参上!」

「3人そろって、スリースターズ!」

 真ん中のワカードが素早く両足を開き、両手を重ねて頭上に高く掲げると、左にチャゲッツ、右にメアは、外に向かって片膝立ちに、前ならえの両手を突き出すと、3人はいつもの登場ポーズをビシッと決めた。

「おいっ、フ〜レア!今日もまた、お前は無駄なことばっかりやってるなぁ」

「何をやったって、君は炎のおじさんとは違うんだゲ」

「ダディがヒーローだからって、ユーがヒーローになれるとはカギらないのデース」

 3人は続けざまにそう言うと、

「無駄だな」

「無駄だゲ」

「ムダデース」

 小気味よく3つそろったいつものリズムで、3人はこのセリフをフレアに浴びせた。

「あ〜っ!出たなスリースターズ!」

 フレアは突然現れた3つの声を、絶壁の上にまぶしそうに見上げると、

「いいんだよ〜!ボクはまだ、練習をやり始めたばかりなんだからさぁ...」

 思ったよりも控えめに飛び出た自分の声を、フレアは少しごまかすように口を尖らせる。

「フ〜レア!やっぱりお前はまだまだ、この未来の炎のヒーロー、ワカード様の足元にも及ばないなぁ」

「及ばないゲ」

「オヨビじゃないデース」

 頭上に小気味よくテンポの揃った3つのセリフは、あたりをぐるりと囲んだ岩肌を飛びハネて、実物以上の厚みを抱えて、さらにフレアに降り注ぐ。

「次の炎のヒーローは、このボクだ!」

 負けじと頭上に向かったその声は、虚しく空へと突き抜けた。

「負け惜しみの言葉も、全く無駄だな」

「無駄だゲ」

「ムダデース」

 3人は高品質な録音テープの再生ボタンを押したように、また同じ口調とリズムで決まり文句をピッタリおさめ終えると、

「それでは、アリーヴェデルチッ!」

 彼らの日課の締めくくりを、今日も声をそろえてキレイに決めた。

 3人はそのまま横一列にひろがって、一糸乱れず整列すると、無言の号令にあわせるように、寸分狂わず向きを変え、横目にフレアを見下ろしながら、ニヤけた笑顔を引き連れて、

 ——— ザッ、ザッ、ザッ

 几帳面にそろった足並みの、小気味いいリズムだけをその場に残して、そのまま姿を消していった。

「くやしぃ〜!スリースターズめ〜!」

 いまさら腹を立てても後の祭りで、

「... だってあの3人は、ボクより5つも年上なんだぞ。属性術も使えて当然だよ。ボクだって、あの歳になったら、きっと誰にも負けないんだぞ〜!」

 すでに誰もいない崖上めがけて、まっすぐ放たれたモヤモヤは、どこに向かえばいいのか行き場を失い、またも虚しく空に向かって突き抜けていった。

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