ジャニーズ性加害問題 鍵を握るのは独占禁止法?

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要約
・ジャニーズ事務所性加害問題について調査委員会の報告書が今日公表された
・被害者の聞き取りから見えてくるのは「ジャニー氏に認められなければ活躍できない」という心理的圧力
・被害者らが活躍できる事務所の選択肢が複数あれば被害は防げたのではないか
・いくつかの事務所があって、変な噂のある事務所は人気が下がるから、それぞれの事務所が自浄努力に励むという構図が理想ではないか
・事務所間の健全な競争を確保する独占禁止法の運用に期待したい
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1 調査委員会報告書 見えてきた被害の実態

ジャニーズ事務所の性加害問題を受けて、調査委員会が報告書を公表しました。

かなり踏み込んだ内容なのでこの問題に関心のある方は目を通すことをお勧めします。

報告書では問題の背景として、同族経営の弊害やガバナンスの脆弱性、メディアの沈黙などが挙げられています。

これを踏まえた上で私がさらに問題だと感じるのは芸能界におけるジャニーズ事務所の一強体制です。

報告書によれば、「ジャニー氏から性加害を受ければ優遇され、これを拒めば冷遇されるという認識が広がっていた」とヒアリング対象者らは供述しています。

さらに報告書では、芸能界においては売れたいと思う者とプロデューサーの間に絶対的な力関係がある上、売れるかどうかに客観的な基準がないため、タレントとしては性加害を受け入れるしかない現状があることが指摘されています。


2 他に選択肢があれば・・・

報告書内のヒアリング結果を見ていて私が感じたのは
「ジャニーズ事務所以外の選択肢がとれなかったのか」
ということです。

もし、ジャニーズ事務所と同じくらいの力を持った芸能事務所が複数あって、事務所間の移動が頻繁にあるような環境があれば、ここまで被害者が思い詰めることはなかったのではないかと感じます。

ジャニーズ事務所が嫌だと思った時に、他の事務所に移ってそこで頑張るという選択肢は取れなかったのか。

誤解しないでいただきたいのは、被害者に対して、「嫌ならやめればいいだろ」と言いたいわけでは決してありません。

ジャニーズ事務所で成功するという道が絶対ではなくて、いろんな場所で活躍できる選択肢があり、様々な環境を試しながら自分の可能性を探っていくという業界の雰囲気があれば、被害は少しは軽減されたのではないかと私は考えています。

被害者らの供述からは、ジャニーズ事務所で性被害を我慢し続ける以外に芸能界に活躍する道がないと思ってしまったことが伺えます。

もし、違う環境で自分の可能性を試すという選択肢があれば。

もしかしたら結果は違っていたのかもしれません。


3 事務所間の健全な競争

そのようなことを考える中で思い浮かんだのが独占禁止法の存在です。

独占禁止法は、公正で自由な競争を確保することで、労働者含め国民の利益を守ることを目的に制定されています。

公正取引委員会は平成30年の報告書で独占禁止法について、フリーランス、芸能、スポーツと幅広く適用する考えを示していて、それ以降芸能界の問題にも積極的に取り組む姿勢を見せています。その中で、ジャニーズ事務所に対する調査も行われました

芸能界では特定のプロデューサーが圧倒的な力を持つという事例が目立ちます。

国民の心を掴んだ結果なのでそのこと自体は素晴らしいと思いますし、ジャニー氏の件で他のプロデューサーの方々に対していたずらに疑いの目を向けるべきではありません。

その一方で、芸能界には今回のような事例を生みやすい特性があることは既に触れた通りで、報告書でも指摘されています。再発防止に向けた業界の体制づくりは必要です。

性被害のない芸能界を作るにあたって、事務所間の健全な競争を維持することで、一強体制ではなく、タレントが複数の事務所を選んで自由に行き来できる環境が整えば、将来の被害を減らすことにつながるのではないかと私は期待をしています。

事実、近年の男性アーティストはジャニーズ一強体制ではなくなりつつあるという見方もあるようです。

ジャニーズ事務所が芸能界に残した功績は否定し難いですが、一芸能ファンとしても、様々な事務所からいろんなタイプのアイドルが出てくることは嬉しいですし、健全な競争を期待したいです。

4 相談窓口ももちろん大事だけれども・・・

もう少し補足しておきます。
被害にあったときの内部通報システムを設ける、相談窓口を設けるといった組織そのものの健全化を図る仕組みが必要なのはもちろんです。

ただ、相談窓口を設けることでどれだけ被害者を助けることができるのかということに対する疑問が、自分が今回の記事を書くことになった大きな動機です。

仮に自分が被害にあった場合を想像したとき、相談窓口があることと、別の事務所に移籍する選択肢があること、どちらがありがたいかということを考えました。
(もちろん両者は二者択一のものではありませんが)

どれだけ秘密が守られるとしても、相談したのが自分だとバレるんじゃないかという不安を全く感じないことは考えにくいです。今まで通り影響なく芸能活動が続けられるかどうかわからないという不安はなかなか拭えないでしょう。

また、相談窓口があったとして、どれだけ相談員が優秀だとしても事実確認をして処分をするまでが簡単なことではないということも考えられます。証拠もなしに人を性犯罪者扱いはできないので、真実を見抜く力を持った相談員が必要です。そんな人材がどれくらいいるのか。

その一方で、別の事務所があれば、そこで新しい人間関係のもと心機一転できますし、そもそも黒い噂のある事務所は入所の段階で選ばないこともできます。

いくつかの事務所があって、黒い噂が立ったら自分の事務所が選ばれなくなってしまうから、それぞれの事務所が自浄努力に励む、というのが理想の構図だと私は考えています。

理想論ではありますが、机上の空論と言えるほどの話ではないと思います。


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