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あるクレイマーとの思い出 #48

 最近、学校関係者から保護者との対応を聞かれた話がありました。
 いわゆるクレイマーに対する対応の話です。その際、20年前の自分の経験話をしましたが、その校長からは「今でも同じ」と言っていましたので、ここに紹介することにします。
 クレイマーとの対応と言うより、相手の保護者と色々話をしたという意味で『思い出』とここには記します。クレイマーは悪者と言うより相手の保護者をどう理解し声をかけれるかのすべにかかった話です。
 30年前に教頭を3年間し、市教委で指導主事を4年。その後校長を10年程やりましたが、こういう対応の話は不思議ですが各々の時に必ず大なり小なり経験はありました。
<思い出1>
 教育委員会に入って3年目。あるお父さんからの電話がきっかけの話です。
 数年前からお電話をよくいただく方で、この時もお子さんの学校の校長の対応の不手際について強くお話されていました。その時話を聞く中で、その場(家)に校長、教頭もいらっしゃることを確認し、また途中電話を替わって出た校長からも「○○主事、こちらに来て下さい。」という電話(沈痛な声で)の内容でした。そこで私は、すぐに上司の課長に内容を伝え、今から自分から出向きたい旨の話をし、相手にもそのことを伝えました。
 30分程度でその方の家に着き玄関に入ると、私の目には校長と教頭が床に正座をしている姿が飛び込んできました。私はそのお父さんに、「お父さんと話がしたいので、二人は学校に帰らせてもらってもいいですか。」と話しますと、「分かった。」とおっしゃったので二人を帰し私もお父さんの前に座りました。
 それから、最初の一時間ばかりは私はお父さんが大きな声で話される話を聞くことに徹しました。
 学校が今まで子どもや保護者に対した不手際、周りの教師の対応や目線、挙げ句の果ては学級の友達の言動。本当に(今まで区担当として)聞いてきた話以上に、たくさんの内容の話がありました。それもどれもが親としては腹立たしい思いであり、不合理な話に思えました。保護者の立場で見ると、今までの鬱積した思いを吐露するかのようでした。(私もこの一時間は終始、相手の顔を見ながら頷きに徹していました。)
 ちょうど話の切りがいい時に私はこんなことを話しました。
「お父さん、お母さん、いろいろ話を聞かさせて頂きました。アのこと、イのことは、校長先生が悪いですし学校の対応がよくありません。またウのことは、お子さんの立場で聞かせてもらうと担任や学級の子ども達の話し方もよくありません。これらは悪いと私は思いますので、今から学校に帰って私から指導します。だからこれらの事は私に預けて下さい。」   
 そして続けて次の話もしました。
「お父さん。お父さん、お母さんの話を聞いて私はそう思うました。しかしお父さん。お父さんの~の話~の言い方は少し考えて下さい。お父さんが言いたいこと、相手に伝えたいことがこれでは十分に伝わりません。」
 こんな話をした所、お父さんからは今までと同じ学校の悪い話も何度か出てきましたが、声を荒げる仕草は無くなっていました。そこで私はその後、①学校に戻って校長、教頭に指導すること、②その結果をお父さんに必ず報告すること、この二つを約束して帰りました。
 学校に戻ると、校長先生の態度が先程の躊躇からイスの後ろに深々と座った態度に変わっていました。そこで私は次の事を二人に話をしました。
 ㋐保護者と話をする時はもう少し(私は主事でしたので係長級、校長は課長級の立場)相手の立場を考えて言葉を選んで話をして欲しいこと
 ㋑担任及び周りの教師もカウンセリングマインドを持って対応して欲しいこと、最後に
 ㋒『子どもが学校に行きたい』と思うようになるように、対応のすべを工夫して欲しい。そんな対応は必ず保護者の心にも伝わること
 この三点を話して帰りましたが、校長先生の様子を見ていると㋐については先が長いという思いになりました。(学校に戻ると強気の顔付きにもなって)

 『クレイマーの親との思い出』と最初に書きましたが、親の立場で言うならば、家庭環境、親の仕事の関係、夫婦間の問題、社会情勢から来る不安(経済的不安も)、そして今までの生育歴から来る対応のすべが影響しているのは確かです。だからこそ私は、こうした親子さんとの話では、まず相手の話の半分は共感すると同時に残りについては親のマイナス分を理解させる努力をこちらがすべきと思っています。
 その中に学校という社会(要素)が入ると、子どもだけで無く親も面食らってしまい、ついいつもの性格気負いで勝負してしまう。(恫喝等の一方的な話し方になる)そんな親側の要因もありますが、私は学校側、教師側が一度謙(へりくだ)った上でカウンセリングマインドに立って、子どもにとって理解しやすく、親にとっても理解されやすい対応を取るべきではないかと思っています。
 『子どもが学校に行きたい』と思うように常に努力する事が一番。

 こんな話を最近ある学校の方に話しました。
 しかしこのお父さんの家に行くタクシーの中で、私は妻に「今から保護者の家に話しに行くけど大丈夫だからね。」と電話したことは話しませんでした。
(令和6年7月20日)

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