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あなたがいるから…… #38

  学校にいる時によく相談されることが多かったことに、「子どもが言うことを聞かない。(子育て)」がありました。
 それは担任の時だけでなく、教務主任、教頭の時も、指導主事の時も、そして校長となった時もありました。しかしその時、私が答える言葉は、いつも「あなた(子ども)がいるからお母さんは助かっているよ。」でした。

 私が6年担任の時、クラスのお母さんからこんなことを相談されました。(35年前の話です)
 「息子が、言うことを聞きません。弟(小4)の世話もしてくれません。言っても言っても無視ばかりです。先生どうしたらいいでしょうか?」 
 そんな話をされたお母さんにいろいろ聞きましたら、仕事で帰るのが遅くなりがちでつい長男に辛く当たってしまうことが多いということでした。(詳しくは以下の通りでした。)
 ・ 長男が小学校に上がった時、両親が離婚されたこと
 ・ 仕事で遅くなりがちで、子どもに家の片付けをさせていたこと
 ・ 長男が5年になった時から会話が減ってきたこと
 ・ ついつい弟の前で、長男に「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい。」と言ってしまうこと

 お母さんからひととおり話を聞いた後、私はこんなことを話しました。
 「お子さんは、忙しいお母さんのことをいつも心配していますよ。お母さんの身体のことも心配しています。でもお子さんは、そんなことをお母さんには言いにくいんですよ。そんな時は、お母さんは黙って(言葉を少なく)お子さんに『ありがとう』。そして『あなたがいるから、安心して働けるんだよ。』とお子さんを信頼して言ってください。」と話しました。
 すると2、3日経ったある日、そのお母さんから1本の電話がありました。
 「昨日の夜、弟が寝ついたのを確認して、後ろを向いていた息子に、『ありがとう。〇〇ちゃんがいるからお母さんは頑張れるよ。いつもきついことばっかり言ってごめんね。』と言いました。すると息子が『いいよ。お母さんも身体に気を付けて。僕も返事しなくて!』と涙ぐんで言ってくれました。とても嬉しかったです。先生ありがとうございました。」と。

 今から15年程前位でしょうか。今では当たり前になっている「カウンセルマインド(受容、傾聴、共感の心)」のことが話題なりました。またその頃、文科省が「その子のどこをどう伸ばす」(前回の学習指導要領の改訂)と評価観の見直しの話が出てきました。まさしくこの時の話と同じことだと思います。
○ まず相手の話を聞く
○ 両者の思惑を尊重し、両者が生きる在り方を模索する

 ・時には、6年生でも膝の上で抱っこしてあげる。
 ・また思いっきり抱きしめてあげる。
ことも時には大切です。男の子と女の子とは若干違いますが、甘えさせてあげることも時には必要なのです。(これらは小学校の時だけかもしれません。)

 前述の相談されたお母さんは、子ども達が二人とも大学に進んだ頃、病気で亡くなられてしまいました。その訃報を耳にした時に、この相談の時のことを思い出しました。
 そしてあの時から35年。あの時から親子の絆はきっと強まったでしょうが、亡くなられた時からも子ども達の心には「お母さんの優しさ」がずっと生き続けていると思います。
 そんな相談の返し方を私がするようになったのも、保護者との相談の経験からかも知れません。(新聞で親子の事件のことを聞き、改めて歯痒さと昔のことを思い出しました。)(令和6年1月9日)

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