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今夜も冷えるな。そろそろ、帰るか。もうすぐ、夜が明ける。 「今度、あったかい飲み物とかさ、毛布とか、持って来ようよ」 「そうだなあ、これから、冷えるもんな」 「これ、放置して、帰れないの?」 「カメラが倒れたり、盗まれたりしたら、終わりだからな」 「あああ、寒い、まぁや、ちょっと、ダメだ、もう、歯の根が合わない、ううう」 北極星を中心とした、星の動きを撮影する。この位置がいいんだ。小高い山の中腹に当たる丘の上に当たるのと、天空を遮るものが、何一つない場所。俺は、ここを
季節が、温かく変わると、星を見られる時間が、短くなる。羽奈賀がランサムに渡って、ひと月経ち、桜の季節になった。星見の丘での、撮影も少し変えてみた。夕暮れの桜を撮影したりしながら、暗くなるのを待ったりした。こんな時、羽奈賀がいたら、一緒に、商店街のコロッケや、あいつの好きな、坂城の和菓子屋のあんころ餅を持ちこんで、花見になる筈だったが、一人なので、あの自販機で、地元のメーカーの小さな缶の、りんごジュースぐらいにした。 星見の丘で、いつものように、カメラを三脚に据え、しっか
その次の水曜日の夕方、俺は約束通り、星見の丘に出向いた。桜が少し散り始めた頃だった。桜の花びらが、地面の半分を覆っている。 「お招きありがとう」 彼女は、暗くなり始めた頃、姿を見せた。 「大きなの、わざわざ、持ってきたんだ」 天体望遠鏡を見て、感心した様子で、笑った。 「凄いね」 「観てみますか?」 「いいの?」 「はい」 覗くや否や、彼女は、驚いたような声を上げた。少し、はしゃいだような、嬉しそうな感じに見える。 「綺麗・・・凄いね。こんな、いっぱいな
その後も、受験生だからと言って、特別なことは何もなく、普通に、週の半分はアルバイトをして、受験勉強は、問題集をやっていた。なんとなく、水曜日の夜は、週毎の星の軌跡の変化を追って、定点観測することに決めていた。星見が丘に足を運んだ。 そんなのは、今、思えば、「ただの口実」になってたのかもしれない。その時の俺には、それが、普通の生活のパターンとして、何の疑問ともせず、そうしていた気がするが。 ある日の下校時、クラスの奴等が数人、追いかけるように、後ろから来た。坂城と、そ
「ああ、昨日、振り込んだから、給料、確認しておいてな」 「わかりました」 「お疲れ様。遅くまでやってもらった分は、いつもの倍、ついてる筈だから」 「ありがとうございます」 翌日の学校の帰りに、商店街の外れのATMのコーナーで記帳し、アルバイトの給料を確認した。金額を見た。周囲には、待ってる人もいない。俺は、ある衝動に駆られた。 五十万円を下した。封筒に入れると、既視感があった。 清乃が、ヤクザに渡していた、金の入っていたであろう、それを思い出していた。分厚さは解ら
「今日は、撮りたかった星の配置になっていて、絶好のチャンスだから、・・・多分、粘って、撮影してくるつもりだから」 「いいじゃない、お誕生日記念ね、お祝いは、次のお休みにするから、鷹彦さんが戻ってる時がいいと、お父さんも仰ってたし」 「ああ、それなら、ありがたい」 「心置きなくね、良い写真、撮ってらっしゃいね」 明海さんに、朝、こう伝えて、出てきた。フェイクというわけでもないが、カメラもバックに忍ばせた。後、例の封筒も、綺麗なやつに変えて、持っていくことにした。 要は、
清乃が窓を少し開けた。涼しい風が入ってきた。自分の部屋のその感じ、外の匂いがそっくりだった。草や土の感じが入ってくる。好きな瞬間だ。 「あのね」 「ん?」 「ああいう時は」 「何・・・?」 「これ、痛いから、早めに外した方がいいよ、少年」 何のことを、言ってるんだろうか。制服のスラックスをハンガーに掛け乍ら、ベルトを指さしていた。それで、言いたいことが、何気に解った。 「え、ああ・・・ごめん」 「うふふふ・・・」 そういうと、また、煙草を咥えて、火を点ける。先端
テストが終わった。案の定、昨日、不完全燃焼な二人、梶間と小津が、俺を追いかけてきた。たまたま、今日、バイトもない日だ。 雅弥「解った。ただし、二人、一緒じゃだめか?」 小津「いいよ、俺は」 小津が、意味有り気に、梶間に目配せする。 梶間「おう・・・わかった」 小津「俺んち、どう?シュークリームがあるんだけど」 雅弥「大丈夫か?淳?」 梶間「・・・うん、まあ、いいや」 梶間が、不承不承なのは解ったが・・・。なんというのか、話の質が一緒だし、梶間としては、現実的な話
清乃との約束の水曜日になった。試験後は、殆ど、夏休み扱いということで、人によっては、受験の為の講習に行ったり、例えば、坂城は、車の免許の合宿に行ったり、それぞれなんだろう。学校もないから、そういう意味での、人目を気にすることはない。家から、坂下までを、気を付ければいいんだ。 夏の景色の撮影の為にということで、望遠鏡と、カメラを準備した。食事は暑いから、持ち歩いて腐らせるわけにもいかないので、近くの店で、パンなどを買って食べるからと、明海さんに伝えた。昼少し前に、家を出る
こないだの時・・・、初めて、そうなった日は、帰った後、慌ただしかった。誕生日だったから、泰彦が、玄関で待っていて、プレゼントをくれて、一緒に風呂に入った。余計なこと、考える暇もなくて、良かったような気がしたが、布団に入ると、不思議な感覚になった。 人の家の布団に寝る、・・・というか、あれは、なんだろう。場所を使うっていう感じだから、ちょっと、違ったのかもしれないが・・・。あの晩は、いつもなら、すぐ眠れるのが、やはり、少し時間がかかった。隣に、清乃がいたら、と、つい、考え