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場所にとらわれない働き方~テレワーク・ワーケーション~


はじめに

皆さん、こんにちは。時代の変化に伴い、政府が主導する形でさまざまな新しい働き方が推進されていますね。
中でもテレワークは、コロナ禍において企業運営を続ける手段として大いに注目を集めました。新型コロナウイルスが収束しつつある今でもテレワークを導入し続ける企業も多く、働き方の1つとして定着しつつあります。今回は、新しい働き方の中でもなじみのあるテレワークに焦点を当ててみたいと思います。

テレワーク

1.テレワークとは

一般的にテレワークというと在宅勤務をイメージしがちですが、テレワークというのは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」の総称であり、在宅勤務以外にもテレワークと呼べる働き方が存在しています。本記事では、テレワークの中から主に「在宅勤務」と、徐々に注目され始めている「ワーケーション」に焦点を当てていきます。

2.テレワークにはどのような働き方があるのか

・在宅勤務:
一般的にテレワークと聞いてイメージされる在宅勤務は、自宅で働く形態で就業形態によって雇用型テレワーク(企業に雇用されている)と、自営型テレワーク(個人事業主など)に分かれています。通勤時間がないため、育休中の社員などが子育てと両立しやすい制度と言えます。
 
・サテライトオフィス勤務:
本拠地以外のワークスペースで働く形態で、在宅だと仕事と生活の境界が無くなってしまうといった心配を解消することが出来ます。オフィスより家の近くで、機材を揃えたりする必要がないという利便性もあります。
 
・モバイル勤務:
移動中や、出先のホテルや空港などで働く形態で、営業職など移動の多い業務であれば隙間時間を活用し効率的に仕事ができます。後述するワーケーションは、余暇を楽しみつつテレワークを行うものであり、モバイル勤務・サテライトオフィス勤務の1つに当たります。

3.テレワークのメリット・デメリットとは

テレワークがコロナ禍により活発に導入され始め、実際にテレワーク業務に従事する労働者が増えました。政府の推進事業であるテレワークですが、労働者目線ではどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。2020年に行われた労働者調査の結果を見ていきます。

◎テレワークのメリット

【出典】日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」

「通勤時間短縮による時間の有効活用」や「自由度の高さ」と回答している人が多いことが分かります。テレワークをすることで、通勤という様々な縛りがなくなることが労働者にとってはメリットであるようですね。
意外だったのは、「育児・介護との両立」と回答している人が少ないということです。テレワークによる育児・介護との両立は、政府も推進するところではありますが、実際にはまだ両立するための制度が整っていないということでしょうか。
 

◎テレワークのデメリット

【出典】日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」

メリットに比べるとデメリットは横ばいです。中でも最も多かったのが「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」というデメリットです。そして通勤をしないことによる「運動不足」と「コミュニケーション不足」と続きます。
これらは生活の場に仕事を持ち込むことになるテレワークならではの課題と言えるでしょう。特に在宅勤務だと家の中で仕事と生活が完結してしまうため、家にこもりがちになってしまいます。そうなると、仕事と生活を割り切れなくなってしまうのも、家族以外とのコミュニケーションが減ってしまうのも仕方がないように思えますね。 

では、これらのデメリットに対してどのような対策を講じるべきでしょうか。政府は労使双方が良質なテレワークを実施できるようにガイドラインを策定しています。政府のガイドラインにはどのように示されているのか見ていきましょう。

4.政府のガイドライン

政府は「テレワークのための適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定し、テレワークについての説明と使用者側の留意点を示しています。

労使双方にとって良質なテレワークの実現には、オフィス勤務とは異なる部分を補うためのルールや取組が必要になってきます。テレワークの導入に際して留意すべき点はなんなのか、どのような制度を整備・活用するべきなのか。
先述の「テレワークの形態」については除き、まとめますので参考にしてください。
 
( 詳細はガイドラインをご参照の上、テレワーク導入の際にご活用ください。)
 
 
〇テレワークの導入に関しての留意点
・対象業務、対象者
 既存の思い込みによって、対象業務や対象者を選定することがあってはなりません。業務の本質的見直しをすることで、一般にテレワークが難しいと思われる業種・業務であっても、仕事の一部にテレワークを取り入れることが可能です。
 対象者がオフィス勤務の労働者のみに偏らないようにし、雇用形態のみによってテレワークをする労働者を選んではいけません。
 
・導入に当たっての望ましい取組
 テレワークの障壁になりうることとして、業務内容・交流・会社の事情が考えられます。そこで、業務のオンライン化や職場と同様にコミュニケーションをとることが出来る取組、上層部からのテレワーク実施の呼びかけなどが行われることが望ましいでしょう。

〇労務管理上の留意点    
・人事評価制度
 業務の過程を見ることが出来ないテレワークの人事評価は、企業側が工夫して、適切に実施されなければなりません。
 業務の達成状況を適宜確認したり、評価基準を示したりすることが望ましいです。また、所定労働時間中の労働のみを適切に評価し、評価方法が異なるものであったとしても、オフィス勤務とテレワークの違いで人事評価に差が出ないようにする必要があります。
 
・費用負担
 テレワークの環境を整備するための負担を労働者が負いすぎないために、事前に労使双方できちんと話し合うことが大切です。業務内容や労働者がテレワークを行う場所の状況を踏まえたうえで、物品の貸与や給付額などの取り決めを行いましょう。
 
・人材育成
 ICTを有効的に利用したオンラインの人材育成や、ICTを適切に扱えるように新しい機材やツール等の使い方研修などを行うなど、テレワークを行う中での人材育成を工夫していく必要があります。
 また、テレワークを行う労働者への人材育成はもちろん、労働者を管理する管理職へのマネジメント能力を向上させることも望ましいです。自律的に仕事に取り組むことが出来るテレワークの特性を十分に活かすには、指示を出す上司の人材育成も重要になるのです。

〇ルールの策定と周知
 前提として労働基準法上の労働者には、テレワークという形態においても、労働基準法をはじめ、賃金や労災などについての各種法律が適用されます。その上で、使用者は労使で協議して策定したテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましいです。
 また、労使間の労働契約にはテレワークを行う場所を明示する必要があり、これは労働者が就労開始後にテレワークを開始する場合であっても、明示しておくことが望ましいです。労働条件を変更することがある際には労働者本人の合意、あるいは合理的な変更及び周知が必要であることに気をつけましょう。
 
〇労働時間管理
 長時間労働をしているのに労働時間を正確に把握されていないことで適切な人事評価を受けられない、という問題もあります。
 では、使用者が視認できないテレワークはどのように労働時間を管理するべきなのでしょうか。通常の労働時間制度も、もちろん適用できますがテレワークに適した制度がガイドラインではいくつか挙げられています。

・フレックスタイム制
 一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることのできる制度。
働く時間と場所に捕らわれないテレワークと相性のいい制度です。
 
・事業場外みなし労働時間制
 労働者が、労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間の算定が困難なときに用いられる制度
テレワークのように上司の目が行き届かない場合において原則、所定労働時間労働したものとみなします。外回りや出張業務などでも用いられます。
 
・裁量労働制
 専門業務型と企画業務型がある。大臣告示で定められた専門的な業務や事業の企画、立案等に関わる仕事は業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねるため、労使協定や労使委員会の決議で定めた時間を労働したものとみなす制度
 対象の業務に当たる労働者であれば業務内容だけでなく、働く場所も自由に選択できるので、より自由度高く仕事に従事することが可能です。

〇労働時間管理の工夫
・労働時間の把握
 情報通信技術を活用することで、労務管理を円滑に行うことが可能です。「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラ 
イン」(平成29 年1月 20日基発 0120 第3号)を踏まえた対策として、
「客観的な記録による把握」と「労働者の自己申告による把握」が想定さ
れています。
 客観的な記録による把握は、パソコンの使用時間の記録等を基礎として、始業及び終業の時刻を確認することが挙げられています。
 一方で労働者の自己申告による把握を実施する場合には、使用者は労働者と労働時間の管理者に対し、自己申告制について十分な説明を行う必要があります。また、申告された時間と実際の労働時間が合致しているか確認を行い、時間外労働の労働時間には制限を設けるなどして、適正な労働時間が守られるようにすることも求められます。
 
・テレワークに特有の事象の取扱い
◎中抜け時間
 使用者は、労働者が一定時間業務から離れる中抜け時間を把握しても、 把握しなくてもいずれでも大丈夫です。ただし、あらかじめ就業規則等に定めておく必要があります。

◎長時間労働
 生活の場が職場となってしまう特に在宅勤務は、勤務時間外でも仕事をしてしまいがちです。使用者から離れた場所で業務するということは、それだけ労働者を管理することが難しく、また労働時間外に指示や報告が行われるということが起きてしまいます。
 
 この対策として「メール送付の抑制」や「システムへのアクセス制限」が挙げられています。使用者がルールやシステムを設定して、労働者に注意を払うことで長時間労働を未然に防ぐことが出来ます。その他にも勤怠管理システムなどで常に労働時間を把握し、管理者からの注意喚起やシステムに労働時間に応じて自動警告を表示させるようにするなどの対策があります。
 
〇安全衛生
 事業者はテレワークにおいても、労働安全衛生法等の関係法令等に基づき、労働者の安全と健康の確保のための措置を講ずる必要があります。
 
・メンタルヘルス
 上司等とコミュニケーションがとりにくいテレワークは、労働者が体調の変化に気づかれにくい状況になりやすいです。そこで事業者は、労働者の安全衛生面を整える必要があります。政府が出している「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト(事業者用)」を活用し、オフィスと同じような体制作りをしましょう。

5.テレワークを導入している企業例

◎企業の労務管理上の工夫
厚生労働省が総務省と連携して運営している「テレワーク総合ポータルサイト」にはテレワークを実際に導入している企業の実例が紹介されています。ここでは労務管理の実例についても少し取り上げてみたいと思います。

〈企業例:アフラック〉
・労務時間管理
 PCのログオン・ログオフ時刻で勤怠管理を行います。
また、ワーク・ライフ・バランス向上のため全社員がフレックスタイム制度を活用することが出来ます。利用者は、一か月の労働時間の範囲で、一日の出退時間を「7時~22時」の間で選択することが可能です。

・安全衛生面 
 相談窓口の設置や独自の基準を定めて過重労働にならないように対策を行っており、アンケートでハイリスクに該当した社員には産業医面談も実施しています。

・テレワーク特有の問題 
 「中抜け」:特に制限を設けず、労働時間に含まれない事を全社員に公開・周知しています。中抜け時間を勤怠管理システムに登録できるようになっているそうです。

〈企業例:LAPRAS〉
・労務時間管理
 自己申告制で勤怠システムに入力します。
 また、フレックスタイム制度を導入している。特徴的なのは独自の制度である「RAW (Rest as a Work)」です。就労時間として、就業時間中の休憩とは別で1日一時間休むことが出来ます。

・安全衛生面
 運動不足を解消するため週に一度、オンライン上で参加できるストレッチや筋トレなどが行われています。なお就業時間中に行うため、参加時間は労働時間として扱われています。
 またコミュニケーションの活性化のためにバーチャルオフィスも導入されおり、毎週水曜日には「オンライン珈琲店」が開かれ、関わりのないメンバーと気軽に話せる工夫がされているようです。

・テレワーク特有の問題
 「中抜け」:フレックスタイム制により1ヶ月の清算期間内で各自が中抜けをしています。
 「長時間労働」:毎日労務担当者が勤怠システムをチェックすることで、長時間労働の危険がある場合は上司と本人に注意喚起が行われます。

〈企業例:プロアス〉
・労務時間管理
 医事会計システムの開発・販売を行うプロアスでは、正社員に事業場外労働のみなし制と裁量労働制を導入しています。オンライン上での自己申告制を採用しており、労働者が適切な労働時間で働いているか管理するための、PCのログ官営ツールも導入されています。

・安全衛生
 正社員には、外部サービスを利用したストレスチェックを月に一度行っています。
 短時間労働者についても、毎月勤務状況に関するアンケートを行っており、労働者の状態や満足度を企業が把握できる体制が整えられています。

・テレワーク特有の問題
 「中抜け」:休憩時間として扱われ、何回・何時間でも取得することが可能です。短時間労働者はオンライン上のタイムカードに記入、一方システムエンジニアをはじめとする正社員は、専門業務型裁量労働制が採用されているため、報告は不要となっています。
 
 このように、企業によってテレワークにおける取組みは様々です。
テレワークを導入するときは職種や業務内容を鑑みて、最適なものを組み合わせてみてくださいね。

人事評価

テレワークの導入によって、労働時間の管理以外にも社内制度の改革が必要になっています。その最たるものが人事評価です。旧来の人事評価はオフィスの中で仕事をすることを前提としていました。みんながオフィスで働くということは上司が部下の働きぶりを間近で見ることができるということです。しかし、テレワーク下ではこうした前提が壊され、旧来の人事評価では対応できなくなっています。

1.課題

日本企業では特に定性と定量のハイブリットで人事評価がなされていたことが図からわかります。

リクルートワークス研究所「人材マネジメント調査2017」

しかし、テレワークの導入によって上司は部下の仕事を間近で評価できなくなり、仕事の経過を事細かに観察できなくなりました。以下がテレワークによって難しくなった定性評価の例であり、多くの評価難を抱えていることが分かります(ツギノジダイ)。

  • 勤怠状況が良好か、遅刻、欠勤、早退は無いか

  • 仕事をする上での服装や勤務態度に問題はないか

  • 社員同士で協力しあう協調性があるかどうか

  • 取引先、仕入れ先など社外の人間とも協力体制を築けているか

  • 業務を自ら考え、主体的に考え取り組んでいるか

  • 不得意な業務にも積極的に取り組んでいるか

  • 新しい業務を進める中で工夫をしているか

  • 業務改善策の提案が行われているか

労働者側にも評価不安が生まれます。テレワークにおいて「頑張っているところを見せよう」と思えば長時間労働を誘引する可能性もあります。パーソル総合研究所は、評価不安について以下のように述べます。「5つの観点における不安がテレワーカーに及ぼす影響について詳細に分析を行ったところ、評価不安が継続就業意向や転職意向に直結していることが分かった。評価不安を抱える層と、そうでない層では、前者の方が後者と比較し1.7〜1.8倍転職意向が高いことが数値から読み取れる(図2)。さらに、評価不安は会社満足度を低下させることも詳細な分析結果から明らかになった。つまり、テレワーカーが抱える評価不安を解消しなければ、離職リスクの上昇は避けられないといえる。」

パーソル総合研究所

また、リモートワーク実施企業のほとんどがリモートワークをしている人としていない人が混在する「まだらテレワーク職場」の状況です。

パーソル総合研究所

テレワーカーがさぼっているのではないかと上司や出社者から疑われたり、テレワーカー自身がさぼっていると疑われているのではないかと心配したりと、まだらテレワークは物理的な分断だけでなく心理的な分断も起こします。透明性の低さは自分自身の評価不安だけでなく、同僚への評価不満にも繋がり得ると言えるでしょう。
以上の課題を解決するためにどのような手段が考えられるでしょうか。

2.解決策

a.評価方法の変更
b.雇用形態の変更

a.評価方法の変更
企業の代表的な人事評価制度にMBO(=目標管理制度)があります。MBOとは会社の方針と社員が目指したい方向性とを擦り合わせた上で、期中(一年、あるいは半年が多い)の目標を設定し、その達成度を評価するというマネジメント手法です。ここで言う目標とは明確かつ具体的で第三者でも評価しやすい内容であることが理想です。このように社員一人一人に自ら目標を作らせることで達成に向けてモチベーションを掻き立てるというのがMBOの強みです。そこまではテレワークとも馴染むのですが、問題は期間の長さと基本的に目標の共有対象が部下と上司に限られることです。期間の長さは、定めた目標が社内外の環境変化に適合しなくなったり、フィードバックが減ったりする原因になります。目標の共有対象が狭いと人事評価が不透明になり、昇進・昇格に際して同僚間で不満が発生しやすいです。
※MBOは本来、マネジメント手法ですが日本では目標の達成率が人事評価に直結することもあり、人事評価として紹介されることも多いです。

目標設定期間や共有対象の課題を解決できるマネジメント手法にOKR(目標と主要な成果)というものがあります。OKRは組織が掲げる定性的な主目標とそれを達成するための複数の定量的な成果指標によって構成されます。組織の主目標と成果指標に関連するように、メンバーもまた個人の定性的な主目標と定量的な成果指標を設定します。この時、あらゆる主目標と成果指標は組織で共有されますので、メンバーが同じ方向を向けるようになったり、役割が明確化したり、メンバー間で進捗の確認ができたりと、コミュニケーションの活性化につながります。OKRの設定の際にはSMARTに気を付けることが大切です。SMARTとはspecific(具体的), measurable(測定可能), achievable(達成可能), related(経営目標に関連), time-bound(時間制約)の頭文字のことです。特に時間制約に関して、MBOが半年あるいは1年を期間とすることが多いのに対して、OKRの期間は1~3カ月程であることが多く、おのずとフィードバックが増えますし、軌道修正もしやすいことが強みといえるでしょう。

こちらがMBOとOKRとをテレワークへの適応性から比較した表です。やはりMBOよりもOKRの方がテレワークに適していると言えるでしょう。MBOが本来マネジメント手法でありながら、日本企業では人事評価に直結していることを考えるとOKRもまた人事評価と関連付けることは容易でしょう。

少し面白い考え方として「評価をやめてしまう」というものがあります。これはノーレーティングと呼ばれる手法です。数値やランクによる採点はしないのです。そもそも人事評価の目的は「従業員をランクづけして報酬を決定することではなく、それぞれのパフォーマンスを最大化すること。」とデロイトトーマツコンサルティング執行役員土田昭夫氏は語ります。それならば大切なのは、いかにリアルタイムでのフィードバックを行うか、定めた目標を柔軟に変更できるか、という点でしょう。またリクルートワークスは、アドビでは「毎年、年に1度のパフォーマンスレビュー(評価結果をフィードバックする面談)の直後に、離職者が増えるという事実が明らかになった。」としています。チームメンバーを成績によって序列化することの弊害としてモチベーションの低下やチームワークの悪化、人材の流出が実際に起こっているのです。こうした弊害をノーレーティングは解消できます。しかし、かといって万能というわけでもありません。いくら定量的な評価をしないと言っても給与や昇進・昇格は決めなければいけないし、限られたリソースの中で「みんな横並び」というわけにもいきません。ここで下される決定に納得感が出せか否かは上司の力量次第であり、納得感にばらつきが出てしまうのが悩みどころです。

b.雇用形態の変更
雇用形態の変革によって人事評価の問題を解決するという方法もあります。
ジョブ型雇用という雇用契約体系を聞いたことがあるでしょうか。ジョブ型雇用では人材を採用する際に職務内容を明確に定義して雇用契約を結び、職務や役割で給与を決定する仕組みです。日本企業の多くはメンバーシップ型雇用で採用しており、職務内容はあまり明示されません。そのような状況でテレワークになってしまうと、何をやったらいいかわからない、逐一上司による仕事振りが必要、という問題が発生します。また、特に職能給を採用している場合には労働者に対する人事考課が必要となり、テレワーク下においても事細かに労働者の仕事ぶりを把握する努力が求められます。一方でジョブ型雇用においては役割が明確ですので人事評価の際にも、評価項目を絞ることができて、より濃いフィードバックが期待できます。

3.最後に

a.評価制度への信頼が人事評価の目的達成のカギである
b.評価制度への信頼を高めるために
 
a.評価制度への信頼が評価制度の目的達成のカギである
パーソル総合研究所の小林祐児氏は「従業員側から自社の制度がどう見えているか」が熟達目標への志向性(自分の能力を伸ばすことを目標とする志向性)に影響を与え、熟達目標を志向することによってパフォーマンスが向上する、と語ります。評価の公平性が保たれていると感じたり、評価制度によって目標が明確になって意欲が高まったりするのであれば、熟達目標への志向性が高まるのです。

b.評価制度への信頼を高めるために
コミュニケーションが有意義であれば評価制度への信頼が高まります。そのためのOKRであり、ノーレーティングであり、ジョブ型雇用なのです。これらを導入しつつ以下のような簡単なことも考えられます。
・週に最低1回は1on1ミーティングや全体集会の機会を設ける
・ランダムな同僚と仕事の内容にとどまらないようなペアチャットができるようにする
 
また、たとえばデロイトやアドビでは、人事から現場のマネージャーへと、報酬や昇格・昇進を決定する権限が委譲されています。従業員とよくコミュニケーションが取れている人による決定ということになりますから、これも評価制度への信頼の向上に寄与しています。
ただしここで挙げた制度はコミュニケーションをとる場を用意したり、コミュニケーションが取れているはずの人に人事評価権を委譲したりするものです。ですから実際にコミュニケーションが有意義になっているかは全く別問題です。結局のところハード面の改革だけでは目的(能力の最大化)は達成できません。だからこそ、コミュニケーションの取り方というソフト面を強化しなければならず、その方法は企業風土によって様々です。いずれにせよPDCAを回して継続的に評価を更新する必要があります。

ワーケーション

1.ワーケーションとは

ここからはワーケーションについて見ていきます。ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語です。ワーケーションも在宅勤務と同様にテレワークの一形態として位置付けられていますが、ワーケーションは自宅ではなくリゾート地で働くことも想定されており、仕事以外の自分の時間も充実させることができるという点が特徴になっています。

ワーケーションは、その名の通り仕事と休暇の両立を可能にする制度ですが、仕事と休暇のどちらを主体とするかによって2パターンに分けることができます。具体的には、仕事を主体とするものは「業務型」、休暇を主体とするものは「休暇型」と呼ばれます。

また、ワーケーションと似た言葉に「ブレジャー」というものがあります。こちらは「ビジネス(仕事)」と「レジャー(余暇)」を組み合わせた造語です。観光庁では、「出張等の機会を活用し、出張先等で滞在を延長するなどして余暇を楽しむこと」と定義しています。

業務型と休暇型のワーケーション、ブレジャーの各イメージについては、観光庁が図を用いて詳しく説明しています。

出典:観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」

このように一言にワーケーションと言っても、その目的を仕事主体にするか休暇主体によって制度の内容も大きく異なります。また、観光庁は実施形態を一応は分類していますが、「これこそがワーケーション」といった決まりごとは無く、かなり自由度の高い制度となっています。したがって、ワーケーションの導入を検討する際にはその目的・内容・実施形態についても詳しく定める必要が出てきます。

2.ワーケーションを推進する背景

ワーケーションは、2000年代のアメリカで発祥し、日本では2017年ごろに働き方改革の一環として、導入に取り組む民間企業や自治体が現れ始めました。しかし、ワーケーションという言葉が広まったのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降になります。急速なテレワークの普及や、大きな打撃を受けた観光業界の振興の必要性から注目が高まりました。

現在でも、国や自治体、企業などが新しい働き方としてワーケーションの導入に力を入れています。ここからは具体的な取り組み事例や、推進する背景について政府、自治体、関連事業者、企業、労働者に分けて、それぞれの立場から詳しく見ていきます。

⑴政府
まずはワーケーションをめぐる政府の動きについて見ていきます。

観光戦略推進会議(2020年7月)
 
2020年7月に開かれた観光戦略実行推進会議についての記者会見におい て、菅官房長官(当時)は、ワーケーションについて言及し、その意義を強調しました。この発言によってワーケーションへの注目度が一気に高まったと言えます。また、2020年7月は政府が「Go To トラベル」を開始した時期です。したがってこの菅官房長官の発言も観光事業の支援を狙ったものと考えることができます。

環境省 国立・国定公園、温泉地でのワーケーション推進事業
 
環境省では国立・国定公園、温泉地でのワーケーションを推進することで、新たな魅力の発信、地域経済の再活性化を目指しています。

観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」
 観光庁は、「旅行需要が特定の時期や場所に集中しやすい」という従来の日本の旅行スタイルにおける課題を解決するため、ワーケーションを「新たな旅のスタイル」と位置付け、企業、地域と連携しながら普及を促進しています。

内閣府「地方創生テレワーク推進事業」
 
地方創生テレワークを推進したい自治体、実現を目指す企業、はじめたい働き手を対象に、地方創生テレワークに関する自治体施策やテレワーク用施設等の情報提供やオンラインでの相談対応を行っています。また、地方創生テレワークの裾野拡大を目的に、自己宣言制度や表彰を実施しています。

このように、政府においてもワーケーションは関心の高いトピックとなっています。しかし、ワーケーションの推進に取り組む目的は各省庁で異なっています。また、全体を通して、働き方改革の一環というよりは、観光事業の支援といった側面が強いという印象を受けます。

⑵自治体・地域
ワーケーションを推進するという政府の方針を受けて、現在、全国各地の自治体で推進事業が行われています。その中でも、コロナ禍以前から先進的な取り組みを行っている自治体として代表的なのは、長野県と和歌山県です。

和歌山県白浜町
 
和歌山県白浜町は全国の自治体に先駆けて2017年からワーケーション事業に取り組んでいます。その背景には和歌山県がIT企業の誘致を積極的に行っていたことが関係します。都市部からのアクセスの良さやサテライトオフィスの整備などを強みとして多くの企業から選ばれる場所となっています。

長野県
 
長野県では2018年度から、「信州リゾートテレワーク」というワーケーション誘致の取り組みを行っています。県内12カ所をモデル地域として選定し、環境の整備や体験会開催などに取り組む民間事業者を支援しています。また、「ワーケーションEXPO@信州」の開催など、全国に向けた発信も行っています。

そして、全国のワーケーションに取り組む自治体同士が連携して活動を行う取り組みもあります。

ワーケーション自治体協議会(WAJ)
 
長野県と和歌山県が全国の自治体に参加を呼びかけ、ワーケーションの普及促進を目的として2019年に65自治体によって設立され、様々な情報発信を実施しています。
Facebook→https://www.facebook.com/WorkationAllianceJapan/

自治体が行うワーケーション推進事業には、地域活性化というメリットがあります。例えば、平日や長期滞在型の旅行需要の創出、企業との関係性構築、交流人口および関係人口の増加、雇用創出、空き家の活用などが挙げられます。観光事業振興の大きなチャンスとなるだけでなく、人口減少をはじめとする地域課題全般に対しても効果が期待されています。

⑶関連事業者
各自治体のワーケーション推進事業は、旅行業界や鉄道、航空といった輸送業界など、関連する事業を行う民間企業も連携して行われています。

ワーケーションの推進に取り組むことは、関連事業者にとってもメリットがあります。例えば、新たな需要の掘り起こしや事業拡大、新しい商品やサービスの開発など、ワーケーションをきっかけに様々なビジネスチャンスが生まれます。

⑷企業
ここまでは自治体や関連事業者などワーケーションを受け入れる側について詳しく見てきましたが、労働者を送り出す側の企業にとっても様々なメリットがあります。2020年に観光庁が行ったアンケート調査では、「従業員の心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上」「多様な働く環境の提供」の2つがワーケーション導入理由として最も大きいことが分かりました。

出典:「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」

調査結果からは、ワーケーションを導入することによって、生産性の向上人材の確保につながるだけでなく、社会貢献による企業価値の向上など様々な側面からメリットがあることが分かります。

そして実際にワーケーションを導入する流れや、成功事例などは、観光庁や経団連が企業向けに詳しくまとめています。また、労災や税務処理、申請手続きなども実際の導入企業の規定と共に紹介されています。

⑸労働者
では、ワーケーションが導入されることで、労働者個人にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
例えば、リゾート地で仕事をすることによってストレス軽減リフレッシュ効果が期待されます。旅先での交流や環境の変化に刺激を受け、新たなアイデアが生まれることもあるでしょう。また、休暇中にリモートで仕事ができるため、はずせない仕事があったとしても休みを切り上げる必要がなく、長期休暇が取りやすくなります。
このように働き方の選択肢が増えることで仕事とプライベートの両立が可能になります。

3.課題

ワーケーションの導入には、それぞれの立場でメリットがあることが分かりました。近年では「ワーケーション」という言葉も徐々に広まっていき、多くの企業や労働者が関心を持つようになりました。

しかし、関心は高まっているのにもかかわらず、観光庁のアンケート調査によると、ワーケーションの導入率は2022年度でわずか5.3%と低いままになっています。

企業がワーケーションを導入しない理由としては、「業種としてワーケーションが向いていない」が最も高く、次に「『ワーク』と『休暇』の区切りが難しい」「適用できる部署や従業員が限定的になるため、社内で不公平感が生じる」が挙げられています。また、情報漏洩のリスクや労災適用の判断、勤怠管理など管理する側の難しさも導入にあたっての妨げになっているようです。さらに、そもそもメリットを感じないという意見も見られます。
そして労働者側も、業種として不可能であるという以外に「休暇中や旅行中に仕事をしたくない」「効率が落ちそう」という理由で興味がないという意見が上位を占めています。

しかしこれらの課題は、業務範囲の明確化、デジタル化、勤怠管理の見直し、セキュリティ対策の強化など、職場の環境整備によって解決できるものも多くあります。導入した企業・自治体の事例や労務管理のQ&A、相談窓口など各省庁が詳しく情報提供を行っているので、ワーケーションに向けた環境整備にはそれらを活用すると良いでしょう。そして、「メリットを感じない」「効率が落ちそう」といったマイナスなイメージも、まずは一部の部署による試験的な導入を行うことでワーケーションに対する理解も深まり、案外ポジティブに受け入れることができるようになるかもしれません。

おわりに

今回の記事では、新しい働き方の中からテレワークに着目し、在宅勤務とワーケーションについて詳しく見てきました。在宅勤務とワーケーションはどちらも場所にとらわれない働き方となっています。オフィスに出社しなくてもどこからでも働けるということは、労働者にとってはワークライフバランスを充実させやすいという大きなメリットがあります。しかし一方で、オフィスとは異なる環境であるために、勤怠管理の難しさや情報漏洩のリスク、オンとオフの区別、リモートにおけるコミュニケーションなど新たな課題が多く生まれることになります。そこで在宅勤務やワーケーションの導入を検討する企業としては従来の制度を見直すことが必要です。その際には政府や自治体の支援を最大限に活用しながら制度作りに取り組むようにしましょう。

もちろん、様々な対策を行ったとしてもテレワークが不可能な業種、個人的な向き不向きなど、全ての人に導入することはできません。しかし、可能な企業や部署から導入を進めることで、働き方の選択肢が増えて今よりもっと自由に働くことができれば働く環境はより良くなると考えます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

テレワークの人事評価、なぜ難しい?社労士が具体例から課題と対策を解説 | ツギノジダイ (asahi.com)
リモートワークからはじまる人事改革 ──大久保幸夫|研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4|リクルートワークス研究所 (works-i.com)
米国におけるテレワーク、リモートワーク (works-i.com)
まだらテレワーク職場で発生する評価不安とその解消法 - パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)
人を育てる目標管理とは従業員の「暗黙の評価観」が鍵 - パーソル総合研究所 (persol-group.co.jp)
ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違いとデメリット・メリット | 記事・トピックス一覧 | 法人のお客さま | PERSOL(パーソル)グループ (persol-group.co.jp)
OKRとは? 【Googleが使う目標管理ツール】KPI・MBOとの違い - カオナビ人事用語集 (kaonavi.jp)
Works 138 人事評価なんてもういらない|機関誌Works|リクルートワークス研究所 (works-i.com)
人事評価の新潮流「ノーレイティング」とは?制度から導入法まで解説 (stanby.co.jp)

環境省「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」
環境省「国立公園でのワーケーションの魅力 | 国立公園に、行ってみよう!
観光庁「『新たな旅のスタイル』ワーケーション&ブレジャー」
観光庁「今年度事業の結果報告」
首相官邸ホームページ「令和2年7月27日(月)内閣官房長官記者会見」
内閣府「働き方を変えると、生き方が変わる。|地方創生テレワーク」

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