これ美味しいっすよ。

 そろそろ暑くなってきた頃、涼むつもりで山に行った筈なのに気付けば海側に。
お腹も空いて、何でもいいやとバイク走らせてると回転寿司の看板。
 個人店らしく聞いた事のない屋号。
海も近いしハズレは無いだろうと己のカンを信じて入店。

 店に入ると老人会のバスツアーの客だろうか、20人程のお爺ちゃんお婆ちゃんが私を見た。
 が、すぐに興味がなくなったか視線を外した。
添乗員も盛り上げようと頑張ってるが反応はイマイチ。
席に着いてレーンを見ると止まってる。
「何にします?」
おばちゃんが注文を取りに。
「これ、動かさないの?」
レーンを指して聞くと
「電気代もバカにならないからね」
「じゃ、回転寿司の看板は」
「あー、あれ出してから客も来てくれるから。お兄さんみたいにね」
ケラケラ笑うおばちゃん。
注文して老人会の方を見るとやっぱり盛り上がってない。
 まぁ、いいやと来た寿司を見ると大ぶりな握り、それに負けないネタ。
ペロンと皿の限界まで伸び伸び広がる肉厚な中トロ。
うおおおお!
全く期待してなかっただけにそのインパクトは大きかった。
味は・・・美味い、美味いぞ!口からビーム出そうだ。
「これ、美味いっすね!」
感動して声に出た。
そこから何皿か続けて注文、美味いうまい言いながら食ってると
「お兄さん、それ美味しい?」
老人会のお婆さんが声掛けてきた。
「いやあ、美味いっすよ、これ食わないと絶対後悔しますって」
「でも、大きいからねぇ」
そうか、私と違って胃の容量にも限度がある。
お通夜状態だったのは食べるに食べれなかったからか。
「だったら隣の人と分ければいいでしょ」
言うとお婆さんが
「ねぇ、分けましょ?」
声をかけてきたお婆さんが隣のお婆さんに聞いて
「いいの?そうしましょうか」
これが呼水になったか隣同士で分けて食べ始めると、美味しいって声が上がる。
添乗員もホッと胸を撫で下ろしてた。

 わいわいと喋りながら食べる老人会。
「これ、美味しいのかね」
そんな言葉が聞こえると
「ねえ、お兄さん、これ食べてみて」
最初に声掛けてきたお婆さんが私に声掛けてきた。
「いいっすよ」
注文して食べてみる。
硬くないし、これなら老人でも食べられそう。
「美味いっす、これ食べないと後悔でUターンしてくれっていう事になりますよ」
ケラケラ笑う老人会。
何皿か注文が入り、楽しそうにシェアして食べてる。
その後先に頼んでた物も紹介して、これは食べた方がいい、これは好きなら、これは地元でいいかも、なんて言いながらたまに来る、これ食べて、をこなしていく。
 すっかり盛り上がった老人会、こっそりありがとう、とお礼を言う添乗員。
何でここに来たの?と添乗員に聞くと店のおばさんが
「あんた、テレビ観てきたんじゃないの?」
「いえ、カンで」
それを聞いて笑うおばさん。
「そうかい、じゃ、あの看板はますます外せないねぇ」
全く回転しない回転寿司、この後何件かそんな回転寿司見つけてるが、美味しい所が多い感想。
 それはそれとして、この老人会も盛況となり、私の方も満足してお先にと勘定を済まそうとレジに。
「あれ、もっと食いましたよね?」
明らかに少ない料金。
「あんた、言われて食べてたのもあったでしょ?いいよ」
いや、食べたのは私だし、と揉めてると添乗員が
「あ、お勘定ですか?」
と言いつつ自分の財布を出す。
レジの値段見て
「〇〇観光でお願いします」
そのまま支払い。
「大変助かりました。お礼と言っては何ですが。支払いは会社ですから」
笑顔で領収書受け取りもう一度頭を下げる。
「ウチも助かったからさ、奢りだよ」
おばちゃんも笑顔で言い、手を振ってくる。
ここで粘っても悪いなと二人の好意に甘えてお礼を言って外に出る。

 まさかのタダ飯にありついてホクホクでバイクに乗る。
こんな事もあるから旅は楽しい。

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