忍び寄る影。

 その日は夜通し車で走ってて朝方幹線道路を走ってた。
車道には車がまばらで何個も先の信号も見える直線、しかも走ってるのは私の車だけ、くらいの交通量。

 普段なら少しはアクセル余分に踏み込む所だが、何かが引っかかってて制限速度プラス5キロくらいで流してた。

 ふと何かが視線に入りバックミラーを見ると赤い回転灯。
白バイが私の車に近づいてる。
こっちは切符切られるような速度ではない。
一応気を付けようとスピードメーター確認して速度をピッタリに合わせる。
そうこうしてると白バイが見えなくなった。
曲がったかな?そう思ったが走ってて傍に入るような道は無かったはず。
もう一度バックミラーとドアミラー確認、やはり居ない。
止まったかな?とも考えるがそんな感じはしない。
おかしい。
白バイは走ってる筈だ。
何で見えない?
気付かない内にこの直線から外れたか?
ジリジリ時間が過ぎる。
加速してみるか?一度止まってみるか?
何度もミラー見るけどやはり居ない。
ふと、不意にミラーの死角って言葉が頭に降ってくる。
いやいや、確かに死角はあるが走ってる車に寸分狂わず追走出来るか?
それでも胸のざわつきが収まらない。
別にスピード出す気もないが、集中力削がれ続けてどうにも落ち着かない。
意を決して前方確認、前方よし、助手席のヘッドレスト左手で押さえて体ごと後ろを見る。

 いた。
左後方、バンパーの角スレスレ辺り、白バイの前輪半分トランク側に被さるような位置、まさに教本通りのミラーの死角を突いて走ってた。
どんな腕前だよ!
エンジン音も気付かれないようギア高めでアクセル煽らず、こっちの速度にピッタリ合わせ位置を合わせ虎視眈々と加速するの待ってたんだ。

 それでも気付いてしまえば元の木阿弥。
チッ、とばかりに左斜線に飛び出し、赤灯回して私の車を追い抜いて行った。
一応言うとスピード違反取り締まるには、一定の距離空けて、一定の時間追走しないとダメなんだが、あの当時はこっちに反論できる証拠なんて提出できる訳もなく、お巡りさんの言ってる事が正しいに決まってるだろ、で終わってた。
ビデオカメラが出始めの頃、後ろに固定して撮影したものが証拠になるか、なんて議論もあったね。

 それでも、当時の白バイのテクニックとか執念と言うべきか、職人芸にまで昇華した隊員も居た。
これが追走されて一番怖かった体験。

 ちょっと短いからもう一つ。
幹線道路との合流地点で渋滞が発生しててなかなか先に進まない。
それでもようやく信号の前まで行けて次に信号変われば空いてそう。
早く変われとギア入れてクラッチ踏んで待ってる時にふと後ろの車を見るとイカつい男が二人乗りのセドリック、色は黒。
二人の頭の間に何か黒い物が天井から下がってる。
覆面パトカーだ。
気付いてよかった。
と、思った時に少しイタズラ心も出た。
 信号が青に変わり、発進。
勢いよく発進。
後方車の天井から飛び出す赤色灯。
スピードは制限速度まできた。
そこでアクセルを抜く。2速まで勢いよく飛び出したが3速、4速とアクセル踏まずにシフトを上げていく。
当然スピードは制限速度以上には出ない。
ちらっと後ろみると狼狽えてる男二人。
虚しく光る赤色灯。
しまうのかな?と思ってたらそのまま反対車線に出て追い越し。
助手席の男が、この野郎、とばかりに睨むが私は今気付きましたと演技してびっくりした顔を貼り付ける。
そのまま走り去る覆面、追い越し違反、スピード違反。
一応赤色灯は回ってたけどね。

 たまたまなのか、覆面パトカーにはいい思い出がない。
某所で箱乗りして棒振り回してバイク煽ってるとしか思えない奴も見た事ある。
事故りそうになった事も。
 それでもまぁ、交通安全の為に日夜働いてくれてるお巡りさんにはお疲れ様、の心で接したいと思う。

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