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短編『箱』

 だだっ広い会場は、集められた者の私語もなく、驚くほど静かだった。 気付いたら、みんなの前にすらっと背の高い男が立っていた。

「はい。みなさん、お疲れ様です。ただ今より、これから始まる作業について、ご説明させて頂きます」 

 集められた者の一部がガヤガヤと私語を始めたが、男は気にする様子なく説明を始めた。

「みなさんには、今から(箱)を作って頂きます。材料は、この会場内に様々なものをご用意しておりますので、ご自由にお使いください。期間は約一年を予定しています。多少、前後すると思われますが御了承ください。尚、形、装飾など、規定はありません。大きさも指定はありませんが、小さいよりは大きい方がいいと思います」 

 男がそう言った時、同じような格好をした別の男が軽く咳払いをしたが、別に気にする様子はなかった。

「最後に、精一杯、頑張って作ってください。みなさんの運命がかかっていますからね」 

 数人いた背の高い男たちがいなくなると、会場に残された者たちは、周りをキョロキョロ様子を伺っていた。

 しばらくすると、箱作りに取り掛かかる者が現れ、材料の吟味を始めた。中には、ゴロゴロゴロゴロする者、ぺちゃくちゃお喋りを始める者もいた。箱作りに熱中する者、興味がまるで無い者、様々であった。 

 宣言された期日が近づくにつれ、各々の箱作りに、かなりの差がついていた。大きく、しっかりとした、立派な箱もあれば、ギリギリ箱といったものもあった。しかし、それでもまだマシで、全く作っていない者もいた。

「みなさん、お久しぶりです。えー、そこの君と、そちらのアナタ。箱を持って、付いてきて下さい」 

 呼ばれた二人は箱を抱えて歩き出した。一方は大きく重そうだったが、もう一方は貧相なショボい箱を軽々と運んでいた。

「それでは今日は、お二人の旅立ちの日です。目の前の小川をその箱に乗って下って行ってください」 

 二人の天使は、それぞれの箱に乗って小川を下り始めた。背の高い男は、それを眺めながら目を細めた。

「箱に乗って、産道という小川を下り切る事ができれば、無事に産まれることができる。また、作った箱が大きく立派であればあるほど、幸せな人生を送ることができる。アナタはどんな箱を作って産まれてきたんでしょうね」 


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いわもとさとし
自分の頭の中で生まれた物語が誰かの心を動かせるようになるのが僕の夢です。 小学生の娘がいるので、親目線の作品も書けたらいいなと思ってます。 コメントでアドバイスしてもらえたら嬉しいです。

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