いわもとさとし

自分の頭の中で生まれた物語が誰かの心を動かせるようになるのが僕の夢です。 小学生の娘が…

いわもとさとし

自分の頭の中で生まれた物語が誰かの心を動かせるようになるのが僕の夢です。 小学生の娘がいるので、親目線の作品も書けたらいいなと思ってます。 コメントでアドバイスしてもらえたら嬉しいです。

最近の記事

短編『六歳』

 結婚十年目で待望の子宝に恵まれた。私は、生まれてきた男の子に溢れんばかりの愛情を注ぎ、大切に育てている。    息子は五歳になった頃から、身の回りの物や触れる物、全てに好奇心を持つようになり、私に、何故?どうして?と質問を投げかけることが多くなった。    ある休日の午前中。息子と二人で、近所の神社に併設された小さな公園に散歩に出た。 「ねぇねぇ、パパ。どうしてツバメは、木じゃなくて、人間のお家に巣を作るの?」  神社の軒先に巣を作り、忙しそうに出入りしているツバメを見

    • 短編『効果』

      「ほんと、困ってるんだよ。なんか見られてるような感じがするって言うかさ」  僕はカーテンを閉めっぱなしにしてあるベランダを見ながら、同じ大学に通う友人に言った。  地方都市の県庁所在地にある、駅前開発から取り残された街の一区画。ここの地主が、立ち退き料を釣り上げようと立ち退きを渋ったら、あっさりと相手が引いてしまい開発対象外になった区画だ。この辺りだけが半世紀以上前のまま、時間が止まってしまっているのでは、と思わせる場所になってしまった。そんな区画にある、築五十年以上の平

      • 短編『箱』

         だだっ広い会場は、集められた者の私語もなく、驚くほど静かだった。 気付いたら、みんなの前にすらっと背の高い男が立っていた。 「はい。みなさん、お疲れ様です。ただ今より、これから始まる作業について、ご説明させて頂きます」   集められた者の一部がガヤガヤと私語を始めたが、男は気にする様子なく説明を始めた。 「みなさんには、今から(箱)を作って頂きます。材料は、この会場内に様々なものをご用意しておりますので、ご自由にお使いください。期間は約一年を予定しています。多少、前後

        • 短編『お散歩』

          「ジン、お散歩行こうか」  ポメラニアンのジンは、狂喜乱舞で僕の周りをぐるぐる回る。  「ジンはお散歩が大好きだな」  僕も思わず笑顔になる。ジンは、早く早くと、落ち着かない。首輪にリードを取り付ける。 「カチッ」  しっかり固定されているのを確認する。一度、首輪にリードがしっかり付いておらず、ジンが大逃走する事件があった。なので、今日もしっかり確認。うん、大丈夫だ。  ジンは彼女の実家で飼われている犬だ。最初の頃は僕が顔を見せるだけで、ずっと吠えっぱなしだった。

          短編『こわいもの』

           どこにでもいる二十代前半の男。その日は引っ越しだった。初めての一人暮らし。引っ越しと言っても、派遣会社の寮になってる家具家電付きの小さなワンルームで、実家から段ボールを二つ三つ運んで終わった。実家で用事を済ませてからバタバタと引っ越しを始めたので、落ち着いたのは深夜になってた。男は細かい片付けが面倒で、明日でいいやとベッドに転がったら、いつの間にか眠っていた。  眠り始めて、どのくらい時間が経ったのか。男は身体が痛くて目が開いた。身体に力が入り過ぎて痛い、そんな感じだった。

          短編『こわいもの』

          短編『天使と悪魔』

           郊外型の巨大なショッピングモール。平日の午前の屋外駐車場、出入口付近には多くの車が止まっている。だが、離れた場所には、ほとんど駐車する車はなかった。その男は、ショッピングモールの出入口から離れた、ガラガラの場所に車を止めた。隣には赤いRVが止まっていた。男はエンジンを切り、ドアを開けた。 「しまった」  風がかなり強かった。少しドアを開けただけで、風がドアを全開にした。  ガンッ!と、勢いよく隣のRVにドアをぶつけてしまった。男がチッと舌打ちをした瞬間、チリンチリンと

          短編『天使と悪魔』

          短編『治験にて』

           向精神薬A(エース)の治験のため集められた学生が、五つのグループに分けられ、それぞれデータを取っていた。扉に『D』と記されたブースでは、手指への神経伝達と、色覚にどのような影響が出るのかを幾つか実験していた。 「あー、そこの緑の紙コップ取ってもらえます?」  僕の目の前のテーブルには白い紙コップと、茶色の紙コップしかない。大量に用意された二色の紙コップを使い、紙コップタワーを作るよう、治験者には伝えられている。一応、茶色の紙コップを指差しながら、これですか?、と聞きなが

          短編『治験にて』

          短編『アート』

           父親の古い知り合いで、津田というアーティストがいる。アーティストと言ってもミュージシャンの類ではなく、現代アートに携わる男だ。   ある日、バイトから帰ると父親と津田さんがリビングで酒を飲んでいた。軽く挨拶だけして自分の部屋に引っ込もうと思ったが、少し一緒に飲まないかと言われ、特にやることもなかった僕は、一緒に飲むことにした。  他愛もない世間話ばかりだったが、自然と話題が現代アートになった。 「最近は特に、大なり小なりインパクトに頼らないと注目してもらえなくなってる

          短編『アート』

          短編『雨とクイズ』

           最近、あなたは不機嫌な時が多い。今日も不機嫌。待ち合わせに遅れたのはあなたなのに。もう、ダメなんだろうな。 「急に降ってくるから、濡れたよ」  イライラを全く隠さないあなた。まだ、ごめんって言われてないよ。まぁ最近、どんな事があっても、あなたの口からごめんって言葉は出てこないけど。  少し微笑みながら傘を出す。天気予報は一日雨って言ってたよ。 「一本しかないのかよ」  いくら雨の日でも、傘を二本持って出かける人は、あんまりいないと思うな。 「行くぞ」  私の返

          短編『雨とクイズ』

          短編『危機』

           一週間後、地球に隕石が衝突する。  全世界、ほぼ同時に隕石に関するニュースが駆け巡った。驚きだったのは、直径約十キロメートルもある隕石が、今の今まで気付かれなかったことだ。世界中の国や機関が、調査対応に追われた。  ニュースが入った数時間後には、隕石衝突に関する情報が、様々な場所から全世界に共有された。大まかな情報は以下の通り。  現状のままだと隕石は太平洋の真ん中、日本とカリフォルニアの中間くらいに落ちる。  地球が壊滅というレベルではないが、衝突の際に巻き上げら

          短編『危機』

          短編『流れ星』

           本格的に風が酷くなってる。十八時まで、あと五分。ギリギリ間に合いそうだ。本当にごめんね。余裕が無さ過ぎて、お天気ニュースすらチェックしてなかった。保育園に着いて、玄関のインターホンを押した。 「アサガオ組の田中大輝の母親です」  透明な大きなガラス扉の鍵が開けられた。息子は担任の先生とつないでいた手を離し、私の足元に抱きついてきた。 「大輝くん、さようなら」  手を振りながら言われた言葉に、息子も手を振りかえして、さようならと返した。 「お迎え遅くなってごめんね。

          短編『流れ星』

          短編『太陽と星空』

           今日も君に好きと言えなかった。正確には、遠回り過ぎた表現はカウントされてないみたいだ。ストレートに言えればいいのは、分かってる。分かってるんだけど、たぶん君を振り向かせることはできないだろう。  今日も暑かった。5月とは思えないほどの気温。僕は暑さでヘロヘロ。日陰を求めて歩く姿は、砂漠を彷徨うジプシーのようだった。ジプシーって、何だかよく分からないけど、たぶんそんな感じだ。  「ねぇ、大丈夫?暑くないの?」  神様。6月、7月、8月はキャンセルで、と心の中で考えながら

          短編『太陽と星空』

          短編『忘れん坊』

          「しまった。鍵がない‥」  玄関の前で立ち尽くす僕。 「あっ、パパ」  息子は明らかに僕の顔ではなく、足元を見ている。  「しまった。靴を履いてない」 息子は鍵を開け、ドアを開けた。 「ママー、パパが」  奥から、妻が眉間にシワを寄せながらやって来た。僕は慌てて言った。 「いや、鍵を忘れちゃって。あと、なんでだろ、靴も忘れちゃったみたい」  妻は本当に嫌そうな顔をして言った。 「それで、離婚したのも忘れたって言うの?」

          短編『忘れん坊』

          スタートライン

           なるべくなら何事も争わないで生きていたいタイプの人間だ。でも、どうせ走るんなら、いいスタートをして、いいレースをしたい。  必死に就活して手にした職だ。会社にしたら、何人かいる新人の中の一人だから、初めから大きな期待を持たれていないのは分かってる。でも、言われた事、やれる事は全力でやろう。 「上司、先輩の言葉は、いい言葉もキツい言葉もモチベーションに変えて頑張るぞ」  鏡の中の自分に向けて暗示をかけるように口に出した。  うん、やれそうな気がする。空回りをしないよう周

          スタートライン

          短編『ヒカリハナツモノ』

           少し先に見える横断歩道、ありますよね。あそこ、交通事故がすごく多いんですよ。田舎で交通量も少ないところなんですけどね。亡くなった方も何人かいらっしゃって。なんでも、悪霊がいるらしく。いわゆる心霊スポットって言うんですかね。霊が見えない人でも、悪い空気を感じる。または、体調を崩してしまうような。  先日も、有名な霊能者と若い男女が数名来て、動画を撮ってSNSに上げようとしてましたが、カメラやスマホは壊れるし、女の子は気分悪くなって吐きまくって気を失うし、怯えて帰っていきまし

          短編『ヒカリハナツモノ』

          短編『五月』

           しばらく土日に雨が続いていた。五歳の娘は、外で遊びたくてウズウズしている様子だった。もちろん室内で遊ぶことができる施設もあるが、娘にとって外で遊ぶことは、鬼ごっこひとつを取っても全く違うものらしい。 「おはよう」  娘が眠い目をこすりながら起きてきた。朝ごはん何?と聞いてきたので、玉子焼きとミートボールにおにぎりだよ、と言うと、さっきまで眠くてトロンとしていた目が、キラキラと輝きだした。 「お出かけ?」  僕が休日の朝ごはんで、玉子焼き、ミートボール、おにぎりの三点

          短編『五月』