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半側空間無視を無視させない! 『リアルタイムfMRI』介入

▼ 文献情報 と 抄録和訳

リアルタイムのfMRIとEEGニューロフィードバック;空間無視のリハビリテーションへの応用を視野に入れて

Saj, Arnaud, et al. "Real-time fMRI and EEG neurofeedback: A perspective on applications for the rehabilitation of spatial neglect." Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 64.5 (2021): 101561.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[レビューの背景・目的] 空間無視は,脳損傷後に空間の対向側を志向し,知覚し,行動することができないことを特徴とする神経心理学的症候群である。空間無視は、右半球損傷後の最も頻度が高く、障害となる神経心理学的症候群の一つであり、多くの場合、慢性期にも残存し、退院時の機能的転帰の低下の原因となる。過去60年間にさまざまなリハビリテーションアプローチが提案されてきたが、その効果はさまざまである。本論文では、空間無視に対する新しいリハビリテーション手法として、脳活動と病理学的な生理学的プロセスを直接対象とした、リアルタイムの脳画像法を用いたニューロフィードバック(NFB)について述べる。

[レビュー概要] 最近の原理検証研究において、このリハビリテーション技術の可能性を示しました。半側空間無視患者を対象に、リアルタイム機能的MRI(rt-fMRI)を用いてNFBを行ったところ、トップダウンの注意信号が失われているために低下している右視覚野の活動を、患者がアップレギュレートできることがわかった。また、脳波を用いたNFBでは、損傷した半球の脳のリズムを部分的に回復させることができた。いずれの方法でも、軽度ではあるが、無視の症状が改善された。NFB技術は、感覚処理に対する注意制御の内因性トップダウン調節を訓練することにより、非侵襲的で安全でありながら、神経レベルと行動レベルの両方で持続的な変化を誘発する可能性がある。しかし、この技術の有効性を完全に立証し、最も適した候補者を特定し、リハビリテーションの文脈でどのように技術を最適化したり組み合わせたりすることができるかを決定するためには、対照群を伴うより適切なパワーを持った臨床研究とより長い追跡調査が必要である。

※リアルタイムfMRIを用いた介入の詳細一例
被験者は,1つ(または複数)の正確な脳の場所からの神経活動のレベルに関するフィードバックを,わずかな時間(例えば,2~4秒)の遅れで受け取ることができる。参加者は、MRIスキャナーの中で寝ている間に、自分の現在の脳活動レベルをビデオ画面(数字または体温計などの類似した尺度を使用)で確認し、連続した調節ブロック(休息期間で区切られている)の中で、何らかの精神的戦略(例えば、視覚的イメージ)を用いて、この活動を調節(増加または減少)することを学ぶことができる。NFBは、脳活動に関する情報を意識的に認識できるようにすることで、脳活動を自発的に制御できるようにするための扉を開くものである。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

半側空間無視の治療は、「無視していることに気づくことができない、無視しているが故に」というパラドキシカルなジレンマを抱えている。それに対して、「空間に対しては無視してしまうのであれば、あなたの頭蓋の中で生じている脳活動を直接的に覗いてみてください」という治療を実現し、そして効果を上げたことは素晴らしい発展だと思う。

結局のところ、『参照点』があって、『ズレ』に気づくことができれば、理想に近づいてゆけるのが人間だと思う。その点、今回のようなバイオフィードバックは、人間がもっているモニタリング機能を強化する、あるいは障害により失われた機能を補う、強力な外付けスタビライザー外部足場である。

モニタリングの威力、外付けスタビライザー・外部足場の考え方について、以下の文章が参考になるので一読いただきたい。

セルフモニタリングでは、自分の行動や認知・感情を自分自身で記録することを通じて、控えたい行動・認知を減らしたり、習慣化したい行動を増やしたりすることができる。つまり自分の行動を記録すること自体が、行動を改善する効果を持っている。(中略)行動記録表は、体温とは違い、意志や感情の恒常性を保つ機能を持たないヒトという生き物が、外付けで導入できるスタビライザー(安定化装置)であり、外部足場の一つである。
『独学大全』