見出し画像

痛みに対する期待値をずらし過ぎると、鎮痛効果はあるが信頼を損なう

▼ 文献情報 と 抄録和訳

痛みを予測することの利点と危険性に関する実験的調査

Peerdeman, Kaya J., et al. "Underpredicting pain: an experimental investigation into the benefits and risks." Pain162.7 (2021): 2024-2035.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景] 期待値は痛みやその他の経験を形成する。一般的には、プラセボ効果に見られるように、期待された方向に体験が変化する(すなわち同化効果)。しかし、期待と体験の乖離が大きい場合には、期待とは異なる方向に体験が変化する可能性がある(すなわち、コントラスト効果)。これまでの研究では、様々な結果に対してコントラスト効果が示されているが、痛みについては示されていない。

[方法] 本研究では,痛みに対する強い過小評価が経験した痛みの強さに及ぼす影響を調べた。また,期待の確かさ,痛みの怖さ,痛みの不快さ,自律神経反応,信頼感などの関連するアウトカムについても評価した。健康な参加者(研究1:n=81,研究2:n=123)は,後続の熱刺激が中程度または高程度の痛みを伴う(正しい予測),軽度の痛みを伴う(中程度の予測:研究2のみ),または痛みを伴わない(強い予測不足)という暗示を言葉で受けた。いずれの研究でも、正しい予測よりも強い予測不足の方が、強い痛みを経験しないことが示された(すなわち、同化)。また、期待される痛み、痛みへの恐怖、痛みの不快感も概ね低下した。しかし、強い予測不足は、同時に期待の確実性と実験者への信頼を低下させた。

[結論]  痛みの過小評価が強い場合でも、中程度の過小評価に比べて有意ではないものの、痛みを軽減する(すなわち同化させる)ことができる。しかし,強い過小予測は不確実性をもたらし,信頼を損なう可能性がある。これらの知見は、医療従事者が痛みを伴う医療行為について過度に肯定的な情報を提供することには注意が必要であることを示唆している。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

プラセボ・ノセボなど、身体化の世界には非常に興味がある。患者との接触時間が多い理学療法士にとって、言葉かけによる患者の内面へのアプローチが治療効果に及ぼせる影響が大きいと思うからだ。今回の研究は、痛みの予測を現実経験とずらし過ぎると信頼を損なうというものだったが、気になるのは、信頼を損なった先に何があるか?ということだ。経験的には、ラポールを築けていない患者は治療効果が上がらない印象を持っているが、その部分のエビデンスにも注目していきたい。