フレイミー女に振り回されて
フレイミーとは、“Friend”と“enemy”からの造語。
仲良い(Friend)フリをしながら、裏での陰口を叩く(enemy)のが特徴。
そのほか、他人の不幸が楽しい。マウントを常に取りに来る。人間関係において、損得ばかり気にする。
私もかつて、典型的なフレイミーに遭遇し悩んだ時期があった。
フレイミーM(以下M)と私とは、もともとは別々の部署で仕事をしていた。Mが私の能力を高く評価してくれ、自分のもとへ来ないかと声を掛けられた。
人当たりが柔らかく、温和な癒されキャラで知られていたMが、まさかあんなに極端なフレイミーだったとは…。
チームのマネジメントが得意だったMは、二番手を担えるプレイヤーを探しており、私に白羽の矢を立てた。
「今居るメンバーたちは、社歴こそ長くても、ポンコツ(以下取り巻き)ばかりなんだよね」「私が何とかここまで引っ張って来たけど、そろそろ誰かに任せたくてね」
「旦那が、私は働き過ぎって怒ってるの。私が働かなくても生活できるんだからって、ずっと言ってくれてるんだけどね」
こうしてMの言葉をざっと並べただけでも、マウンティング臭がプンプンする。
因みにMのご主人は、高級外国車の販売員で、車が売れなくなったと言われるご時世でも、ザクザク稼いでいるような話をMから聞いた。
思えばMは「いいなぁ!」「すごーい!」「羨ましーい!」とリアクションされるのが、大好きだった。
先出の取り巻きたちは、お約束のように感嘆していた。
召使のように、飼い犬のようにMに従順な取り巻きたちにリアクションされて、Mは嬉しそうに微笑んだ。
実際Mのマネジメント力は、見習う点が多く気付きも沢山あったため、私は純粋にMをリスペクトしていた。
私に任せられるようになって欲しいとMが言ったのも、素直に受け止めMの期待に応えようとした。
しかし後から来たのに二番手とは、取り巻きたちが歓迎してくれる筈がない。
Mからのアドバイスとしては、先ずは私の実力を取り巻きたちに見せつけられれば、インパクトと説得力を与えられるからと。
私は、その最初のミッションをクリアした。
Mは、スカッとしたと異様なほど高笑いし高揚しながら、取り巻き一人一人を分析し、悪口を私に話した。
「この子にはこういうところがあるから、気を付けて」
「この人は前にこんな事をやらかしてるから、信用されてないんだよ」
「この人は、厄介払いされてこの部署に来てるのに、自覚がないんだよ」
Mと私とでこのチームを改革すると話があり、私は更にMへの忠誠を約束した。
次のミッション、その次は…と色々と進めて行くうちに、取り巻きたちから私への反発の声が上がった。
Mは、自分が取り巻きたちに諭すから、気にするなと私に言うので、私は深く気に留めないようにした。
取り巻きたちの中の一人で、私とほぼ同じタイミングで入職したKさんは、Mと同い年で同じ既婚者だった。
子供が居ない点も、二人は共通していた。
Kさんの事をMが私に話す際には、「ちょっと頭が悪いところがあるけど、真面目だし悪い人じゃないと思ってる」と微妙な評価だった。
いつしかMから、一人一人の悪口を聞かされるのが日常になっており、「だからこそ変えたい」と、Mは陰口を叩く事を自身で肯定しているかのようだった。
Kさんの事も、「またやらかしたよね、私と同い年とは思えないよね、ちょっと私が恥ずかしくなるよ」と陰口に振り切る事もよくあった。
そうこうする内に、取り巻きたちからの反発など気にするなと言っていたMから、私のやり方がまずいと指導を受けるようになった。
やればできるから、信頼しているからねとMから言われ、私はMをまだまだ信用していた。
だからこそ努力もしたけれど、どうも私の言動が、何故かいちいち裏目に出ている。取り巻きたちからの反発が、どんどん強くなって行く。
取り巻きたちが、私の事をどう思っているか何と言っているかをMから聞くと、伝え聞きでもやはり傷ついた。
「私もわざわざ言いたくないけど、直せるなら直した方がいいと思って」良かれと思って私に伝えているという事を、Mは強調した。
私はふと思い出したように、Kさんも同じように私に不満を感じているのかMに尋ねると、Mは言葉を濁し、Kさんがどう感じているかより、私が早く改善する事が大事だと言った。
何となく、Mが話題をKさんから逸らせようとしたように感じた。もしくは論点をずらしたいような。
話の最後にMは、この不満の件で、取り巻きたちと直接話さないようにと私に念を押した。
それまでMの言動を疑うなど全く頭になかったのに、モヤモヤと私への不満が、同じボリュームで増長して行き、何かおかしいと疑念も強くなっていた。
そんな矢先に、また新たに一人が入職する事になった。
入職を熱望したのは私だった。ポテンシャルがかなり高く、この人と一緒に働いてみたい!と感じたのだ。
ポテンシャルの高いTさんが有能だとMも理解したこのの頃から、悪口とは別に、いよいよ辞めたいと言い出すようになっていた。
「前にも話したよね、誰かに引き継ぎたいって。私が辞めたら、Tさんと二人で引っ張ってって欲しいな」
いつの間にかTさんにもその話はしていて、辞められては困る!と部下二人から懇願されたMは、さぞや満悦だった事だろう。
おかしいのはMの方だと私が確信したのは、Kさんの妊娠が判った時だった。
もう諦めていたところへ授かったとの事。
初産で高齢出産、それでもおめでたい話題にチーム内は盛り上がった。
同い年で似た環境だったMは、素直に喜べなかった様子で、「いい年して無計画に妊娠なんて、頭悪過ぎるよね」「Kさん込みでチーム再編成を考えてたから、計画が丸潰れだよ」腹立たしそうに私にブチ撒けた。
Kさんは確かに、仕事ができるとは言い難かったけれど、仕事に対する真面目で正直な姿勢は、信用できる人だとと感じていた。
Mから、直接話してはならないと言われていたものの、確証を得るベく私からKさんに声を掛けた。
Kさんも、私とは直接話さないようにとMから言われていたとの事。でも、私と二人で話したいと、ずっと思ってくれていた。
Kさん、ぶっちゃけで二人で話しましょう!
過去の私とMのやり取りと、MとKさんとのやり取りを擦り合わせた。ショックと呆れと怒りと、様々な気持ちが沸々と湧き上がった。Kさんも泣きそうになっていた。
要するに、本人不在のシチュエーションで、本人の陰口を叩く。もれなく全員が対象だった。入職したばかりのTさんでさえも、言われていた。Kさんに関しては、私やTさんと個別で仲良くなって欲しくなかったようで、さんざんMからKさんに吹き込んだらしい。でもKさんが、私やTさんもMが言うほど悪くはないと見てくれていたため、Kさんなりにずっとモヤモヤを抱えていたらしい。事実を知ってショックだけれど、知らないままよりは良かったと言ってくれた。
Kさんは入職した直後にMから、仲良くしてね、私たち友達になりましょうと言われたらしい。
同い年だし、二人とも子供も居ないから、仲良くなれると言われたと。
私はゾッとした。
これまでのモヤモヤも、私への不満が収まらない背景も理解できた。
Mの性根には、嫉妬が根強くあった。
Kさんの懐妊、Tさんや私のポテンシャル。
それ以外は、自身より下としか見ていないのでコキ下ろす。
それでも、飼い犬のようなポンコツでも、懐いてくれれば自尊心を保つ事ができた。
ご主人と仲良さげで幸せそうに見えたのに、なぜ?
もしかするとMは、職場で陰口を叩いて意地悪をする事で、ご主人と円満を保っていたのかも知れない。
Tさんももしやモヤモヤしているかも知れないと、私から声を掛け、やはり!の結果だった。
皆の悪口を聞かされて、早くも辞めたい気分だったと。
Mに、私の陰口もみんなで共有していたんですねと突き付けてみた。「言ってないよ!どう聞いたか誰から聞いたか問い詰めないけど、良かれと思っての事なんだよ!」「私が辞めるからってヤケになってる?」「ねぇ誰から聞いた?」
Mなりに、私の信頼を取り戻そうとしたのか、私を個別で何度も呼び出した。Tさんも何度か呼び出されたらしい。何度話しても、Mは潔白を主張した。
Mの主張が虚しく聞こえた。
私だって悲しい。裏切られていたなんて。
信じていたのに。この人について行こうと真剣だったのに。
出社最終日は、かつて見た事がなかった程のイライラオーラ全開だったM。業務の事で私やTさんが話しかけても、眉間に皺を寄せて、あからさまにそっけなくされた。Kさんも怯えていた。
形ばかりの事務的な挨拶を済ませたM。私は最後ぐらいはちゃんと挨拶して、感謝の気持ちも伝えたいと考えていたけれど、Mからの殺気がすごくてすくんでしまった。
これがフレイミーの実態。
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