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お題 書く時間

 書く時間より錬る時間が好きだ。

 こめかみにドライバーを当てネジを弛める。開ききっていない頭の割れ目に指が掛かる。待ってましたと言わんばかりに真っ先に飛び出して来たのは主人公。右手には青龍刀、左手には拳銃を携え、追いかけて来る敵達と闘いを繰り広げている。あの雑居ビルの屋上で縛られているのはヒロインか。すると横に立っているのがボスだな。

 おや? 主人公がいない。キョロキョロ辺りを探ると、大きな洋館のリビングにその姿はあった。先程とは違いおとなしい格好をしている。スーツにネクタイ、マントを背負い、頭にはハンティング帽、右手には虫眼鏡を持っている。テーブルに突っ伏している女性は口から血を流している。同席している者達は慄いたり、動きが固ったり、堪えきれずに叫んだり。主人公はそれらの顔をじっくり見ている。そうか、捜査は既に始まっているんだな。

 その時『ドォーン』と大きな音がする。洋館の煙突から大砲のように星々が飛び出した。遅れて煙突から大きな虹が現れた。それを助走台にして主人公が空を飛ぶ。いつの間にか背中には翼が生えている。集まって来た妖精を従え、夜空を自由自在に飛び回る主人公。

 主人公が越えた大海原の向こうから潮騒に混じって電話の音がする。きっと担当編集からであろう。原稿用紙はまだ誰の足跡も付いていない真っ白な砂浜。私はその砂浜にリクライニングチェアを設置して、耳を塞ぎながら少しだけ眠ることにした。

了 (584字)

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