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お題 顔自動販売機

 明日期限の資料作成があるのにコーヒーを切らしてしまった。普段は駅前のスーパーで弁当と一緒に買うのだが、今日は資料のことで頭が一杯ですっかり買い忘れてしまった。

 朧気な記憶で近所の自動販売機を探し当て、握っていた硬貨を投入口に入れようとした瞬間、俺は息を飲んだ。真夏なのにHOTしか売っていなかった訳ではない。商品の陳列ウィンドウ。その場所にそぐわない物があったからだ。

「顔?」

 そこには人間の顔が陳列されていた。目を閉じ口を真一文字に結んでいる。

 なんとなく顔に気を使い、そーっと硬貨を入れる。いつもの銘柄に指を伸ばすと、顔は目を開き俺の指先を視線で追ってくる。指を自動販売機のボタンから遠避けるとまた目を閉じた。

「いったい何なんだ?」

 よく見ると顔の下には数字が表示されている。

「なになに、5000円…。お前商品なのか?」

 恐怖より興味が勝った俺は購入を決めたが、生憎財布は家に置いてきた。急ぎ家に戻り10分後。俺のような物好きが他にもいるらしい。顔は売り切れていた。

 翌日、駅前のスーパーで弁当とコーヒーを籠に入れレジにできている行列に並んでいた。ふと思い立った俺は踵を返し飲料コーナーの陳列棚へとコーヒーを戻しに向かった。

了 (515字)

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