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お題 海砂糖

「海砂糖だね、まさしく」

 あなたは軽く咳込み私に微笑む。躊躇しつつも目を瞑って一気に飲み干す優しいあなた。キスを終えたコーヒーカップがその逞しい腕で随分と小さく見えるわ。

「飲み慣れてないからさ」

 いいのよ、そんな言い訳しなくても。ここの砂糖は海の味。決して甘くはないもの。

 とても些細なことだったけど、あの一杯であなたと私は別の世界の人間ってことを思い知らされた。

 ううん、そうじゃない。そんなことはとっくに気付いてた。ただ、あなたの腕に抱かれている時だけそんな現実を忘れていられたの。

「ごめん」

 謝らないで。明日ここを出て行くあなた。あなたには陸に戻っても幸せでいて欲しい。心からそう思う。だけど私が好きだったその逞しい腕に他の人が収まることだけは絶対に許せない。

 贈り物を用意したの。私からの最期の贈り物。海砂糖はあなたには少し塩辛かったでしょ。今度のも塩辛いかもしれないけど最後まで飲み干してね。私からの海土産を。


了 (410字)

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