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☆49 神官救出大作戦(裏)

 本編に入る前に改めて書く。
 以下は日本語版原作小説三巻(あるいはそれに該当する中文版や英文版など)を読了済の方限定の記事である。条件に当てはまる方々には、十分楽しんで頂けると思う。前回の「☆48 神官救出大作戦(表)」と対になっているので、まずはそちらからお読み頂くと状況がよりわかりやすいだろう。
 だが、アニメオンリーの方々にはお勧めしない。冒頭から重大なネタバレが含まれている上に、おそらく内容も理解できないだろうからだ。今すぐこの記事を閉じるよう、注告する。閉じたところでアニメを楽しむ分には、何の影響もない。
 では。条件に当てはまった方々には、先へお進み頂こう。


 前回「☆48 神官救出大作戦(表)」は謝憐の側の話だったが、ここからは花城の側の話である。本当は何が起きていたのか、という考察だ。

 まず、前提段階からおさらいしておこう。花城は黒水沈舟と協定を結んでいた。二人には探し求める人物がそれぞれいる。花城は主に人界で、黒水は(地師になりすまして)主に天界でそれを探っており、相手側の人物に関する情報を得た場合、すぐにそれを相手に伝えるという内容だ。
 花城は一足早くその相手と出会うことができたが、天界の情報は貴重なものであるし、まだその協定を維持したまま、彼らはそれぞれ過ごしていた。
 そこへ起こったのが、「本物の地師」による火龍嘯天の術の発動である。

 これはいつの時点で起こったのか。半月関で花城と黒水が対面した場面では、まだ起こっていなかっただろう。起こっていたら黒水があんなに落ち着いていられるわけがない。しかし菩薺観に戻ってから、謝憐が眠りに落ちる寸前に「また今度、本当の姿で会いにくる」と花城が言っているので、既にこの時、一旦謝憐と離れることを決めていたのがわかる。
 つまり、この間のいずれかの時点で、本物の地師による火龍嘯天の術が発動され、黒水から花城へ連絡が入って、二人で今後の対応に向けた打ち合わせをすることになったものと思われる。

 二人の考えた作戦はこうだ。上手い具合に地師(黒水のなりすまし)は、花城の動向を探るための間者として、君吾により彼の元へ送られている。(そもそも君吾からすれば、術を発動した神官の候補として、地師が一番可能性が高いので、鬼市に誰かを送り込むことに決めた、と言えるだろう。)
 そこで、地師が花城にその正体を掴まれそうになり、身の危険を感じた彼が火龍嘯天の術を発動したことにする。(この時点で本物の地師が殺されたかどうかはわからない。案外、術の発動で法力が暴走し、自ら死を招き入れてしまった可能性もある。黒水に長期間拘束されていたので、体も弱っていただろうから。いずれにせよ、謝憐たちが鬼市に足を踏み入れた段階では、既に死んでいたものと思われる。)
 なりすまし地師(黒水)は花城に拘束され、助けを求めているという状況にして、遠からず来るはずの神官たちを待ち、最後は一緒に天界へ帰る(花城から見れば、むざむざと取り逃す)ことにする。そうしないと今後黒水が天界で情報を探ることができなくなるからだ。
 簡単に帰したのでは逆に疑われる可能性もあるので、黒水はある程度痛めつけられた体にし、また少々見つかりにくい仕掛けを施して救助の神官たちを待ち受ける、と。そしてこの時には、下弦月使も協力者として参加することになっていたのだろう。

 花城は謝憐が来る可能性を考えただろうか。多分、来ないといいなと思っていたように感じる。だが逆に来てしまった場合は、謝憐の手柄になるように取り計らえばいいか、と考えたかもしれない。

 さて、ここからはアニメのシーンとリンクさせて考えていこう。
 謝憐と風師が墓から出てきた鬼女たちに案内されて鬼市に入る場面と、その後二人が離れてしまう場面に関しては、偶然だろう。そこまで作為的と考えるのは穿ち過ぎだと思う。結局二人は早々に合流してしまうわけだし。
 だが、賭場の門を潜った謝憐にすぐ案内の娘が近づいて来たのは、おそらく意図的だ。娘は賭場の従業員だと思えるし、広い鬼市で謝憐を見失わないために指示を出したのだと思う。
 賭場での騒ぎで謝憐に便宜を図り、その後「極楽坊へ(行く)」と聞こえるように言ったのも、そこへ謝憐が訪ねて来るのを期待してのことだろう。何せここに目当ての神官がいるのだから、来てもらわなければ困るわけだ。

 だが、この計画は郎千秋が「友なら偽ってはダメです」と言い出してしまったため、上手くいかなかった。いつまで待っても来ないので、今度は下弦月使を使いにやり、半ば強引に極楽坊へ連れて来ようと考えた。
 その時に、下弦月使の右腕の呪枷をわざと見せている。左腕には布が巻かれて袖口が絞られているのを見て欲しい。普通、左だけ巻いて右は巻かないなどということがあるだろうか。しかも右には呪枷があるのに。明らかに謝憐は、気を引かれるよう誘導されている。(謝憐は呪枷を見てしまった衝撃が大きすぎて、左手まで気が回っていない。)
 これは後々下弦月使を使って、問題の部屋へ謝憐を向かわせるための準備だと思われる。

 極楽坊で花城が「数日離れただけでよそよそしくなった?」と謝憐に訊いたのは、「神官行方不明事件のことを聞いたから、俺を犯人だと疑ってる?」というように聞こえる。仲が拗れてしまうことを、本音では心配していたからだろう。

 謝憐が与君山で出会った少年の捜索を花城に頼んだ後、「郎千秋を放っといていいの?」と花城はいささか唐突に切り出す。
 一見この言葉は(謝憐がそう思ったように)「無鉄砲で一本気な郎千秋を放っておいたら、また何をやらかすかわからないよ?」という意味に聞こえるが、本当は風師と郎千秋の動向を探るためだろう。後から彼らが来るのか、すぐに合流するつもりなのかどうかを訊いているのだと思う。探りを入れていることに少し後ろ暗い気持ちがあるのか、花城の指がもじもじしている(というように見える)。

 その後、花城に緊急の連絡が入ったので彼は出かけることになるが、逆にいい機会だと捉えて下弦月使を動かし、謝憐の目につくような行動を取らせる。問題の部屋の近くで尾行に気づいたかのようなふりをして謝憐を梁の上へ行かせ(他に隠れるところがないのでそこへ上がるしかない。横からは賽子の目が見えにくいので、その方がいいと考えたのだと思う)、上から鍵となるその目がはっきり見えるようにして立ち去る、と。
 最後は花城が謝憐に運気を渡して、賽子を確実に操れるようにすれば、地師の元へ行けるはず…。

 花城が謝憐を武器庫へ案内したのは、風師と郎千秋が極楽坊へ来るまでの時間稼ぎではなかっただろうか。何せ二人は鬼市で散々な目にあったようなので(これも花城の指示によって行われた可能性がある)、これ以上おとなしくしていられなくなった二人が合流するのを待っていたのでは、と。謝憐一人で対応させるのは、少々危険かもしれないと思ったのだろう。道中にはいたずらの過ぎた罠が散りばめられているので。
 もちろん良い機会だから、謝憐の好きそうなものを見せて、楽しんでもらおうと思っていたのは間違いない。

 脱出場所を武器庫に設定したのは、見覚えのある場所なら逃走経路を把握しやすいだろうため。そこで花城が待ち構えていた(ここも偶然の鉢合わせではないだろう)のは、地師が花城の内情を探っていたと伝えるため。このような状況になったことの説明(実際には嘘の言い訳)もできるし、これを言っておけば君吾に再び間者を送らせないための牽制になる、と考えたのだろう。

 全ては花城と黒水の思惑通りに進んでいたはずだった。最後の決着を花城がどのような形にするつもりだったのかまではわからないが、地師と救出に来た神官たちには逃げられた、という体にするはずだったのは確かである。
 だが、極楽坊は燃え、何より謝憐に深手を負わせる結果となった。花城はこれを、謝憐を欺いて利用しようとした罰だと受け止めたかもしれない。

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