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☆38 「三郎」の残したもの

 明け方、菩薺観には雨が降り、それも上がって少し陽が高くなった頃、謝憐は目覚める。(また真ん中で、眠った時と反対向きになっている。)
 疲れていたのだろう、まだ少し眠そうだが、寝床の枕元に半月の眠っている壺があるのを見つける。三郎の姿はない。

 表へ出てみるが、整えられた薪と掃かれた落ち葉はあるものの、やはり三郎の姿は見当たらない。「また今度、本当の姿で会いにくる」と三郎は言っていた。「きっと立ち去ってしまったのだろう」と考えたのか、やれやれというように息を吐いて、謝憐は胸元に何かがあるのに気づく。
 首に掛けられていたのは、細い鎖とそれに通された透き通ってきらきらと輝く指輪だった。

 この指輪が何なのかは既にたくさんの方々がお考えだ。中には「いずれ二人が結ばれたら、その指輪を三郎が謝憐にはめてあげて欲しい」と言う人もいたが、そんな危ないことは絶対にやめてくれ、と私は言いたい。誰にも見つからないように大切にしまっておくべきものだ。だが、その指輪の正体については、ここではこれ以上語らないことにしよう。

 ふと誰かに呼ばれた気がしたのか、謝憐は菩薺観の中に向かって走り出す。映し出されるのは、謝憐の記憶。今まで隠されていた「花城」の姿がくっきり見えるが、謝憐はまだ知らない。過去の少年の姿が映され、その走り出す姿と現在の謝憐が重なって、着いた先にある『神像』(今回ははっきり見えている)と菩薺観で「花城」が描いた『仙楽太子悦神図』がまた重なり、少年の見上げる神像が一花一剣の『仙楽太子』であることがわかる。

 菩薺観の中にはやはり誰もおらず、謝憐は呆然と佇むが、彼の見つめる『仙楽太子悦神図』と頭の中にある鮮やかな記憶も、「三郎」の残したものだ。

 罪人坑の底で戦う「花城」の姿、謝憐十七歳の神武通りで落ちる少年に向かって謝憐が跳び、罪人坑で落ちる謝憐を「花城」が救出に向かい、落ちてくる少年を謝憐が受け止め(仮面が外れて謝憐の顔が顕になっている)、「花城」も謝憐を受け止める。

 以下は『天官賜福』中国版エンディング映像だ。

 未だ破損の残る菩薺観の中で、棚引く若邪。与君山死体吊るしの森に置かれた傘には、寄り添って歩く二人の影が映る。履き清められた場所にある箒は慕情の象徴。『巨陽殿』と書かれた扁額が割れるのは、後に『南陽殿』と改められたからだろう。机の上に積み上げられる巻物のある場所は『霊文殿』。立派な武神像があるのは隠されていた与君山の『明光廟』。蠍尾蛇が屯するのは『将軍塚』のある洞窟。巻き上がる風は罪人坑で風師の起こしたもの(二人の人影は、謝憐と半月か)。
 最後に『仙楽太子悦神図』と細い鎖に通された美しい指輪が映る。


 満足の一期だった。次回からは引き続き二期の解説に入る予定。
 ここからは基本的に「三郎」は「花城」と呼ぶことにする。
 よろしくお付き合い頂きたい。

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