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「今村大将と昭和天皇の接点 その1」/関東軍参謀副長時代

この前の記事「今村大将と昭和天皇」で昭和天皇と今村大将の接点を『昭和天皇実録』から拾い出しました。

関東軍参謀副長時代の接点

そのうち、以下に示した第一番目と二番目の関東軍参謀副長時代に二度謁を賜ったという時代について、記しておきます。
1)昭和十一年四月 関東軍参謀副長(少将)
2・26事件後陸軍の師団長・軍司令官会議に関東軍から派遣(参謀副長の任)され、謁を賜る。
2)昭和十二年四月 関東軍参謀副長
陸軍の師団長・軍司令官会議に関東軍から派遣(参謀副長の任)され、謁を賜る。

二・二六事件

記載の通り、一番目のものは、昭和十一年二月二十六日に二・二六事件が起きたあとのことです。
二・二六事件は、陸軍の青年将校が時を憂いて起こそうとしたクーデターであり、重臣を殺害し、陸軍省、参謀本部を扼し政府を転覆しようとした企図ですが、昭和天皇の強い鎮定の意志によって陸軍首脳が従い、収まったものです。詳細はウイキペディア等をご覧ください。


この事件当時の今村さんですが、一年前の昭和十年三月に少将に進級、朝鮮駐在の歩兵第四十旅団長についていました。これには後述することと関係してきますが、事情がありました。当初は東京第一旅団長を任される予定でしたが、第四十旅団長に変更になったのでした。旧来陸軍では第一旅団長を任されるものは将来の師団長昇進を約束されたと受け止められるという慣習があったそうです。そのため、多くの慰關の私信が今村さんに寄せられたそうですが、今村さんは不快に感じて今村さんらしく一切返信をしなかったと漏らされています。
事件発生と同時に憲兵隊長から連絡を受けた今村さんは、師団長が留守中だったので、師団長代理として師団の対応を指示するのですが、軍紀を厳にし二・二六事件に与する一切の行為を禁じ、朝鮮の治安にも十分の配慮を取ります。
ここに今村さんの軍紀を最も重視する軍人としての姿勢が顕れます。

挿話/禍福はあざなえる縄のごとし

この裏話としての挿話が『今村均回顧録』には書かれていますが、旅団長の就任時のことです。
旅団長は、通常二つの連隊を束ねる司令官ですが、少将が任せられる職務です。
その就任にあたって、前もって陸軍人事局は今村さんに東京第一旅団長就任を予定していたのですが、前任の工藤旅団長が次の赴任先の第四十旅団の朝鮮に夫人の体調を理由に変更を申し入れそのため、工藤少将がそのまま第一旅団長に留任、今村さんが第四十旅団長に就任するということになりました。

このとき、もし今村さんが第一旅団長になっていれば、二・二六事件の首謀者が第一旅団を中心としていたことから、のちに首謀者の属する連隊以上の上長が全て予備役にならされていることから、今村さんもここで軍役を終了していたわけです。
要は少将で終わった将軍として歴史に登場することはなかったと言え、我々も『今村均回顧録』とまみえることはないのでした。

二・二六事件後の、軍紀粛清を企図した師団長以上の司令官会議に関東軍司令官の代理として出席

二・二六事件は、首謀者は拘留され軍事裁判で極刑を含む厳罰が下されましたが、陸軍も綱紀粛正のため、前記した首謀者を出した連隊の連隊長以上の司令官の予備役編入と新任の上田、寺内両名以外の大将の予備役編入が成され、全体で大きな異動を伴う組織改革が行われました。
また、綱紀粛正の一環でしょうか、師団長以上が集められ、以後の再発無きを厳しく通達されるとともに昭和天皇の御言葉が伝えられたということです。
このとき、関東軍は軍司令官でなく慣例として参謀長か参謀副長が師団長会議に出席することになっていた関係から、組織改革により第四十旅団長から関東軍参謀副長に転じた今村さんが昭和十一年四月の東京での師団長会議に関東軍を代表して出席したわけです。

この師団長会議に伴って、上京した師団長らに昭和天皇からご陪席が仰せつけられたことが『昭和天皇実録』に記載があります。そして、その師団長会議に関東軍から出席した今村参謀副長にも陪席の日に謁を賜われた、との記載がされています。
別に記載になっているのは、師団長以上が親補職であるのに対し、今村さんはそうでなく少将であったからと思われます。

次の年にも師団長会議があり、同様に昭和天皇への拝謁が記録されている

次の年の昭和十二年の四月五日にも師団長会議に伴い、親補職の軍司令官及び師団長より各管下の状況の奏上を昭和天皇にしたとの記載が見られますと同時に、今村関東軍参謀副長に謁を賜う、との記載も見られます。

このときのことは、『今村均回顧録』には記載がありません。
今村さんはこの年の八月に陸軍歩兵学校幹事に転じていますので、関東軍参謀副長1年5カ月の間に二回、昭和天皇の謁を賜ったということになります。



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