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「おそめ ー伝説の銀座マダムー」(新潮文庫)石井妙子著/京都女の銀座マダム畢生の一代を綿密に優しく記して人生の重さと軽やかさが心地良い

石井妙子氏は、あの「女帝 小池百合子」を書いた人で、その出版に関するニュースで名前を知りました。歴史の中に見つけられる女性たちを記した本などの記事がネットで出ていてそれを面白いなと思い、はじめてこの人の本を読もうと思いました。

アマゾンで検索したりすると、先述した「近代おんな列伝」よりも処女作に近いこの「おそめ」の方が面白そうだと思い、読むことにしました。

おそめ

「おそめ」にして良かったと思います。もちろん「近代おんな列伝」もいずれ読もうと思っていますが、この「おそめ」は石井氏にとっても思い入れのとりわけ強い著作だということが読んでいてよくわかりました。

水商売に生きた、昭和の女「おそめ」。近代性という意味で人間としてちっとも古臭くなく新鮮な切り口でとても楽しかった。
女性ならでは、の著作だと思います。石井氏が描く女性はなかなか、魅力的でした。

人生は悲哀に満ちているけれども、見ようによっては軽やかで愉しい。「おそめ」さんはそんなことすら言わずに軽やかにそして優しく濃厚な人生を生きたのでした。

こんな女性の取り仕切る銀座のバーに入り浸ってみたかった、これはある意味で男の夢でしょう。大半の男は、立身出世のほどはいざ知らず、そこまで男前を挙げることができず、散っていきます。
でも、「おそめ」さんはそんな男たちをも優しく包んでくれる、本来の意味で優しい女性だったと感じることができます。この本は、男としての側面で読むとそういう読後感を催させます。

そして、この本は、それのみならず人間として人生を感じることも出来ます。石井妙子は綿密に調べ、「おそめ」に真摯に立ち向かい、その感性の信じるところを描く尽くしています。人間は哀しいが、人生は一方で暖かい潤いにも満ち満ちている、そう言っているようにも思います。

そして、戦後昭和へのノスタルジーと共に、ノスタルジーだけでない普遍的なものが読後の人間を包んでくれます。

面白く、愉しい時間でした。

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