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「ローマから日本が見える」塩野七生著、集英社文庫/いまや”日本”でなく”世界が見える”

塩野七生さんの「ローマ人の物語」は読んでみたいと思ってきたけれど、何分大作なので、一度読みかけたら読み切らないことには、という気がしてこの年まで読まずにいる。

この間、そういう意味で手軽な塩野本を見つけたので読んでみたが、面白かった。

それが上記の「ローマから日本が見える」という、もともとは平成17(2005)年に刊行した著作だった。
今読んでみると、内容的に、特に”日本が見える”という部分はほとんど無く、平成17年当時世界の中で一人負け状態だった日本のことを念頭に読む人が多かったために、この書名になったのではなかろうかと思えた。

”日本が見える”ではなく、”世界が見える”

21世紀も20年以上を経過し、サッチャー、レーガンから始まった新自由主義も行きつくところまで行き着き、先進諸国はChinaも含め、格差による分断が政治経済金融全てにおいて不安定化し行き詰まりを見せて、先行きの見通しにくさと共に人々の精神まで侵し始めているように見える。

そういう状況の中、欧米中の金融システムの不安定性のこの間のバブルともみられる金融緩和膨張による非常な不安定状態を日々感じて、日本の金融の安定感の比較優位を見ている今の我々から見ると、もちろん日本の再生こそが求められるにしても、その他の世界を含めた混迷の方が、この「ローマから、、、」の主題として、”世界が見える”の方が遥かにふさわしいと思える。

ローマ、千年以上の不屈の歴史

この短い一冊の本で、ローマを語らせて、やはりこの人の右に出る人はいまい、と読んでみて素直に思う。
一部に「ローマ人の物語」そのものは歴史書でなく、歴史物語であるという主張もあるが、私的には全く結構、ローマ時代こそ歴史物語でまず賞味したいところだ。
その要望にまさに応える最初の一冊として、非常に面白いし、今後「ローマ人の物語」を読んでみる気になる優れた本だと思う。

この先の世界の行方を考える

この先の世界を考える上でまさにうってつけだ。
紀元前753年に都市国家として王政ローマが建国され、200年余り後、元老院による寡頭政治である共和制へと改革され組織のローマとなった。
さらに貴族平民間の相克をケルトショック後の改革により平民への要職開放により国論統一をはかりイタリア半島統一へと導いていく。
半島統一後、カルタゴとの三度の世界大戦を組織と個人の力で制し、世界制覇を成し遂げる。
成功の後の絶対危機とも言うべき、内戦の連続、しかし、それをもローマはカエサルとオクタビアヌスの知恵と勇気で乗り切り、さらに五世紀にいたるパックスロマーナを実現する。

循環史観に立った、先読みと戦略も必要に思う。

このローマの歴史を見てみると、今世界で起きていることはかつて起きたことの焼き直しであるとの感が強く起きる。
我々はともすると進歩主義史観に立ちがちだが、それはおごりというものである。ビスマルクよろしく、賢者は歴史に学ばねばならないと思う。
ローマの歴史を振り返り、謙虚にこの先の世界を見ていかなければならないだろう。
そのための絶好の、機会をこの「ローマから日本が見える」が与えてくれる。


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