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「ローマ人の物語ⅩⅤ ローマ世界の終焉」/帝国の、ローマ文明の終焉、哀しいかな。活力が失われローマ人の気概が雲散霧消し、ローマ人がいなくなった、、、、

読むのがつらくなる「ローマ人の物語」最終15巻

本巻15巻では、ローマがローマでなくなり、痕跡さえも破壊され消失していく過程が描かれています。
そして読んでいて、つらくなるのがこの「ローマ人の物語」最終15巻です。
あの輝かしいスキピオ、カエサル、アウグストゥスのローマはもう痕跡さえも無くなっていく、そんなローマに何の意味があるのでしょう?
そんな塩野七生さんの叫びが聞こえてきそうな15巻です。

人間を知るためには誕生から死までの事績を丁寧に追うことだとの信念で『ローマ』を追った塩野七生

あとがきで、塩野さんは、人間を知るためには誕生から死までの事績を丁寧に追うしか方法は無く、ローマを知るためには、一人の人間と同様にその誕生から滅亡までを丹念に事実を追っていくことだというようなことを書いています。
まさに、そうであれば、塩野さんはどんなにつらくとも滅亡への詳細な事実を追っていくしかなかったのでしょう。

最後のローマ人、蛮族の血を引くスティリコの懸命の努力は皇帝ホノリウスには既に何もわからない、スティリコは最後はホノリウスに嵌められ、殺害される、、、、
蛮族出身とは言え、ローマ人の気概を残したスティリコ、スティリコよ、ああー、スティリコよ、、、、とここまではまだ希望を微かに感じながら読めますが、、、、あとは読むのがつらくて辛くなる一方です。

サディスティックな気持ちで読める場合もあるが、ローマ愛が高じて

こういう衰亡の物語は、どこかサディスティックな気持ちで読める場合があるのですが、どうやら私は塩野さんのローマ愛に全き同感をしてしまい、そういう気持ちは起きず、つらい読み物をひたすら読むという感じになりました。

つらい読書のモチベーション

そういうつらい読書にも、モチベーションはあります。
おそらく塩野さんやこの「ローマ人の物語」の愛読者が最終巻を読み通すモチベーションは、母国日本にあるのではないかと思います。
私にとってもそれは日本です。
ローマ帝国がここまで衰亡の淵に沈んでいった根源的原因は何か?
この最終巻にそれが如実に表れています。それはローマを愛する心、が消失してしまったということです。
ローマ人としての誇りと気概を持ってローマを守ろうとするローマ人がいなくなったがために、ローマは蛮族に二度までもその全てを劫掠されたということです。
その惨めさは愛国の誇りや気概のある処には決して訪れるものではないでしょう。

王政ー共和政ー元首政、そして専制政治。その醜さが終焉時に一斉に顕れ出る

以前の「ローマ人の物語」の書評でも記しましたが、ローマは王政ー共和政ー元首政、そして専制政治と順を追って政治体制が変遷します。
これは、民主制が最も進歩した政治形態とする現代の進歩史観をあざ笑うかのように歴史の現実は古代でさえも進んでいたということを示しています。

その専制政治の醜い実態がローマ帝国の終焉に色濃く表れてきて、そのことでローマは滅びるのだということがこの15巻では繰り返し胸に突き刺さりるように出てきます。
なんという皮肉でしょうか。

ギリシャ・ローマ文明が滅びたということ。文明が滅びる時、中間層以下の大多数の人々にたとえようのない不幸が訪れる

人間の現実に生きる力を信じる開明的文明である、ギリシャ・ローマ文明が滅びたということなのだろうと思います。実に哀しいかな、、、、

そして、栄華を誇った文明が滅びる時の実態がここに見事に表れています。
それは、最上層ではない、中間層以下の大多数の人々にたとえようのない不幸が訪れるということです。
こういう現実を知らなければならない現代の人々が如何に多いことか。

歴史に学ばなければ、大多数が不幸になる

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というのはドイツ統一の宰相ビスマルクの名言ですが、まさに歴史に学ばなければならないとはこういうことです。
権力に集まり、権力をほしいままにし、専制政治を私利私欲のために追及してやまない愚者たち、それは彼らが突然現れたというわけではないところに問題の核心があります。
やはり経験に学ぶだけで歴史に学ぶことができなかったその多くの先達が作ってきたものだということなのです。
そのことがこの「ローマ人の物語」全15巻にはたくさん例示されています。

何のために

何のためにか?
先述しましたが、それはやはり日本のためです。
通り一遍表層を舐めたものではなく、人間を直視し、事実に基づき、人間性を掘り下げた複雑だけれども重層的に理解される重要な歴史を学びましょう。
そうです、滅ぼしてはならない日本のために歴史を学びましょう。






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