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「日露戦争旅順攻防戦ー追記補足/司馬遼太郎史観に騙されないで」/203高地戦実施のタイミングはやはり第三回総攻撃直後でベストではないのか、追記の追記:戦術としての203高地戦の意味

下記記事で日露戦争の203高地戦の戦略的意味、戦術的意味について記しましたが、追記の上の補足をさせていただきたいと思います。

203高地戦は明治37(1904)年11月27日~12月5日までの間に行われたものです。
この露軍戦力の大消耗を強いた作戦の時期ついての考察を補足として記しておきます。

確かに、この203高地が永久堡塁ではなく強化野戦陣地であったということで大消耗戦をもっと早くに実施していればという仮定の話が有り得ると思います。

第一回総攻撃(8月)~第二回総攻撃(10月)の間

第一回総攻撃(8月)、あるいは第二回総攻撃(10月)あるいはその間において203高地攻略をしていたとしたら、ということになります。あるいはそれは有り得たのか、という問いです。

まず第一に組織命令系統、つまり統帥上満洲総軍がどういう作戦を命令していたか、ということでは、第一回から第三回までの総攻撃を東北正面永久堡塁の奪取からの旅順攻略を命令していたのですから、最初に203高地を力攻するということはできなかったという点があります。
これは、もし西北方面の203高地を最初の段階で力攻して、東北正面から逆にまだ戦力豊富な露軍の反転攻撃に会えば、第三軍の総崩れも有り得ますし、そうでなくとも物資補給路を失うという致命的リスクに展開する可能性が有りました。
ですので、やはり第一回から第二回までの総攻撃の間に203高地戦を実行するというのは、もちろん戦の最中ですから幸運にも成功することが有り得ないわけではありませんが、合理的ではありません。

第二回総攻撃(10月)~第三回総攻撃(11月)の間

第二回総攻撃から第三回総攻撃の間、ということでは、どうかということですが、そうなると多少可能性が出てくるものと思われます。
第二回までの総攻撃である程度旅順要塞の構造や攻撃有効性がわかってきています。そして、露軍も東北正面での消耗もしてきています。
ですので、この間のどこかで203高地戦を仕掛けるということは有り得たこととも言えると思います。

実際のタイミング:第三回総攻撃直後

しかし、そのタイミングに関しては、その場で常時四六時中、その作戦と手段を考え続けている現場がもっともよくわかるということからすると、やはり現場の乃木大将が第一師団に打診し、決断した第三回総攻撃の直後というのがベストであったと見てよいのではないでしょうか。

追記の追記:陣地攻略戦における迂回攻撃戦術

最後、旅順攻略戦の203高地戦に戦術的意味について、日露戦争全体から見た考察を私なりに記しておきたいと思います。

日露戦争における陸戦は総じて、野戦陣地、要塞を含む陣地攻略戦の色合いを強く見ることができると思います。
それは、奉天会戦について記した記事をご覧いただくと分かり易いと思いますので是非そちらをご覧ください。

それらを見ますと、基本原則として、陣地を攻撃する側は攻撃される側に比して大きな損害が強要される、ということが現実として横たわっています。
日露戦争では、
・遼陽では黒木第一軍が東部方面露軍左翼を迂回攻撃することで日本軍の勝利を導きました。
・黒溝台では、日本軍左翼がそのか細い陣地を臨時立見軍の助勢を得て何とか持ちこたえて敗戦を免れました。
・奉天では、日本軍第三軍が西部方面露軍右翼の大外を包囲すべく進撃し、そこに第三軍の三倍の露軍主力を誘きよせたうえで耐えに耐えてしかも進撃を続行することで勝利を手繰り寄せました。

以上を見てくると、大雑把でこんなことを申し上げてかなり恐縮なことではありますが、かなり共通性の有る戦術が浮かび上がってきます。
つまり、正面の主力の闘いは陣地同志で多少の兵力差で勝負をつけることが難しく、陣地外の迂回攻撃によって相手側にダメージを与え勝機をつかむというパターンで、特に日本軍が勝利していることです。

旅順の203高地戦もこの戦術に緩やかには含まれる戦術概念なのではないかと思います。

ここまでに考察してきますと、下記2つの記事で申し上げたように、乃木さんには奉天会戦の自軍の戦略的意義が分かっていて、事前の会議で総軍司令部に戦力の増強を意見具申したということが明らかなのではないかと改めて思います。
そしてその戦力の増強はされなかったわけですが、わたしには、奉天会戦を勝利に導く第三軍の闘いがどうあるべきかを乃木さんが唯一承知して第三軍の統率を行った、としか思えないわけです。

以上、203高地戦を詳細に見ていくことでもかなり日露戦争の実相が見えてくるということがわかりました。
今後とも研鑽に勤めていきたいと思います。

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