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「BSテレ東 『男はつらいよ』第三十二作『口笛を吹く寅次郎』」/竹下景子(当時三十歳)演じる出戻り娘のほどよいイノセントな美しさにイカれるのは寅さんだけではない

第三十二作『口笛を吹く寅次郎』

第三十二作『口笛を吹く寅次郎』は、二代目おいちゃんを演じた松村達雄が寺の和尚、出戻り娘の姉の竹下景子、和尚の父と確執を繰り返す弟に中井貴一。
たまたま訪れた岡山県高梁市、博の父親のお墓参りをしたそのお寺、帰路に就く寅の前に、法事で酒を飲み過ぎた和尚の松村達雄が現われる。しばらくするとその後ろから美しい女性が和尚に付き添うように介抱している、寅はどうしてもその美しい女性に目を奪われて和尚に誘われればもうついて行かないわけにはいかない。

当時ちょうど三十歳の竹下景子に観客はみな惚れた

当時ちょうど三十歳だった竹下景子、なお花のような美しさを湛え、ほどよいイノセント薫る出戻りの娘役は、まさにぴったりはまって寅ならずとも観客の男は皆、このときの竹下景子の恋をしてしまったのでなかろうか。

当時の彼女は、カバーの写真の通りの美しさを映像の中でも魅せてくれている。

和尚と息子の不和ととりなす出戻りの姉、その家族にぴたりとはまる寅さん

二代目おいちゃんをやった松村達雄は、この作品だけでなく、その後もちょくちょくこういった形で懐かしく登場するが、渥美さんと抜群に息の合ったところを見せてくれる。この作品のおかしみが抜群なのは松村さんにも多くを負っている。そしてこの作品において松村さんなくして竹下景子は光らないと言っても良いと思う。

いつの世にもある家族の確執、そこに人生経験を踏んだ風な寅さんがマドンナの気持ちを柔らかく包み込む、そして恋の錯覚が生まれる。

様々な事情が織りなすアヤのなかで、その恋が本物らしくなっていくという、初期の作品からは一歩も二歩も踏み込んだ設定になっていくのがこのころの作品の特徴なのかと思う。

寅さんの袖を引く、竹下景子の魅力

寺での生活が二人を一層近づけようとするが、ひょんなことから照れくさくなった寅さんは柴又へ帰る。

そこへ、着物の美しさから洋服の美しい女性となった竹下景子が柴又を訪れる。寅さんへの思慕を湛えた秘められた胸の内を、すべてわかっているくせに心が無視をしようとする寅さん。
”とらや”と柴又駅で繰り返される、竹下景子が寅さんの袖を引くシーンは、その表情とともに観客の胸を締め付けるようだ。竹下景子にこんなことされてあんな表情で見つめられて恋に落ちない男はいない。

ただ、私にも若き日に経験があるが、美しい娘だからこそ自分が思われることは想定外になり心が無視をすることはあるものです。普通は経験を重ねてわかるようになるのですが(寅さんはそうなっては映画が続かないのでそうはならないとしか思えませんが)、振り返ってどう考えても運命の女性だったと思われる場合があります。男の人生にはこういうことがあるものというのも真実です。

マドンナ竹下景子のその後の出演作品

竹下景子は、その後の、第三十八作『知床慕情』、第四十一作『寅次郎心の旅路』でも、別役ではあるがマドンナを演じることになる。
『知床慕情』では比較的今回の設定に近い出戻り娘役で、同様にほどよいイノセントな魅力を存分に発揮することとなる。



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