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「一技術者が仕事の意義について考えてきた一側面 エピローグ1」/『雪埋梅花 不能埋香』1 定年講演

定年講演の結論の一つに引用しました、

『雪埋梅花 不能埋香』

について、補足説明します。

これは漢文で、読み下しますと、
『雪 梅花を 埋むるも 香りを 埋む 能わず』
となります。
もう、これでだいたいの意味はお分かりと思います。
定年講演で結論として引用したのは、シンプルには、
私としては、そうありたいと望んで技術者人生を歩んできました、ということです。

少し掘り下げさせていただきます。

この言葉は、著名な有機化学者で生化学者でもあり、
私の母校大阪大学の赤堀四郎先生の言葉です。
赤堀先生が好きな言葉として座右において人生を歩まれた言葉だということです。
赤堀先生は苦学をされ、夜間中学を経由、千葉医専の薬学科を卒業され、桃谷順天館から東大理学部の助手として派遣されたところを東大から東北大教授に移られた眞島利行先生に引かれて、東北大学に入学、有機化学及び生化学の道に入られました。
その後、ここでは詳しく述べませんが、多くの偉大な研究成果を上げられ、戦後大阪大学の総長、理化学研究所の理事長を歴任され、文化勲章を受章されています(ウィキペディアなどから)。

赤堀先生の著作『生命とは 思索の断章』(共立出版)には、『雪埋梅花 不能埋香』を千葉医専の薬学科卒業時に友人に贈られた言葉とされておりますが、それ以来座右としてきたのということですので、便宜上赤堀先生の言葉としてもよいと思われます。

この言葉には、実は2つの意味が有ります。
一つは、文字通りしっかりと誠意をもって一生懸命やっていれば見る人は見ている、というような意味です。
もう一つは化学者にとって非常に重要で、化学的真実は雪に埋もれていて見えないことが多いが、真剣に考え抜いているとその香りから突き留めることができる、というような意味です。
実際、化学ほど多様な学問はあまりなく、一つの理論で説明できるということはほとんどありません。わずかな現象をヒントに新しい真実が発見され発明に繋がる学問です。だからこそ、この考え方は有意の化学者には非常によくわかる考え方なのです。

私自身、会社で最も大きな仕事をしたときも、こういう状況の中で発見、発明につなげた経験があり、腹に落ちるしっくりとくる言葉で、心に沁みてくるものが有ります。

以上、そういう背景を踏まえたつもりで、定年講演の結論に使用したわけです。

『雪埋梅花 不能埋香』の2に続きます。
(さらに述べさせていただくことが有ります。)


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