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「小説 雨と水玉(仮題)(67)」/美智子さんの近代 ”共通の友人 T君とE君”

(67)共通の友人 T君とE君

金曜日の朝から来てもらった美智子のおかげで啓一の体調は土曜日の夜にはすっかり落ち着いた。その夜も早くに就寝して日曜の朝までゆっくりと寝た。
翌朝、体調が戻ると食欲が出てきたので、朝食は美智子が作ってくれたパン食に目玉焼き、スープとサラダをペロリと平らげた。
美智子は金曜日から来ているので、啓一はその疲れが気になったいたのでその日は昼過ぎの新幹線で帰阪させることにし、運動がてら東京駅まで送っていくことにした。
渋谷で昼食をすることにしていた店に座ると、
美智子が思い出したというように、
「あのね、この前の水曜日に、サークルで同期のT君から電話連絡があってね、皆で私たちのことをお祝いしたいって言ってるらしいの。式の招待状を何人かに出したでしょ、それで情報が回ったらしくて」
「うん、そうかあ、T君が代表して連絡してきたってことか。
まあ、それは有難いことやと思う」
「それでね、式のあとに二次会とかでお祝いするのはどうかって言うんやけど」
「うん、特に式の後は予定はないよねえ、僕はいいと思うけど」
「うん、わたしもそれやったら、せっかくやし、いいかなと思って」
「うん、そうしてもらお」
「それでね、来週の連休で啓一さん、大阪に来てくれるでしょ、そのとき、T君とE君が事前の打ち合わせをしたいって言ってるんやけど。
啓一さんの体調の方が大丈夫ならやけど。」
「うん、明日から会社に行くつもりだし、大丈夫と思う。
少し様子見て水曜日当たりに決めようか。まあ、大丈夫と思うよ。
それに月曜から金曜は仕事やけど、土曜からの連休は僕は九連休でしょ。美智子さんは土日の後の月、火は出勤やったよね。そやから火曜日の夜から大阪に行くから僕は少し休息できるしね。」
「うん、わかった。
二次会やってくれるのは嬉しんやけど、
今度会った時ね、E君とかいろいろ聞いて来るんちゃうかなと思って。
根掘り葉掘り聞かれたらどうしよ?」
「まあ、聞かれて照れくさいところはあるけど、やましいことが有るわけやないから正直に話せばいいと思うけど。彼らも二次会を企画するのに情報が欲しいんでしょ、まあ、しゃあないというか、かえって、こちらからお願いせなあかんことかもしへん。
この間も言ったけど、僕のこと茶化してくれてもいいよ、美智子さんがわかってくれていればいいことやから。でもそこまで微妙なところは適当にいなしといてもええんちゃう、違うかなあ」
「うん、そうやね、わかった」

啓一は美智子が疲れてないか、気になって睡眠をよくとってもらうことにしていたが、本人がしっかりしているのか、美智子は元気で東京駅午後二時前の列車で帰っていった。
その週の水曜日に啓一の体調も良くなっていたので、連休の水曜日に、美智子の同期のT君、E君と昼食を一緒にすることにした。

大阪梅田のパスタ屋さんで待ち合わせた。T君とE君は美智子の同学年で啓一の四つ下の学年、ともに真面目な理系の学生で運動神経もなかなか良く、二人とも明るい良い性格だった。ただ、E君が多少口の方が達者でそのあたりを美智子は気にしていたようだった。

「やあ、T君、E君、久しぶりやねえ。
今回はお世話になるみたいで本当にありがとう。」
と啓一が言うと、T君が、
「いや、佐藤さんにそう言ってもらえると僕らも嬉しいですよ。
僕らが良く知ってる二人が結婚されるって言うのはホンマにお目出度いことです。
あっ、まず言わなあかんかった。このたびはおめでとうございます。」
E君も、
「佐藤さん、田中さん、おめでとうございます。」
「ありがとう。」

食事をしながら、E君が、
「早速ですけど、ぼくらのマドンナの田中さんを射止めた佐藤さんに、皆からいろいろ聞いてこいって言われてますので、いいですか。
いつごろどういうきっかけで二人は付き合い始めたんですか?」
「いきなり、直球やねえ。
うん、たまたま去年の秋にね、ばったり曽根の駅で会ってねえ、それから付き合った」
「えっ?えらい最近やないですか。それも駅でばったり再会って、ほんまに偶然ですか?佐藤さん、田中さんの来るところ網張って待ってたんとちゃいます?」
「いや、ほんまに偶然で、びっくりして」
「えっ、でも佐藤さん、そしたらすぐ付き合ってくれって言ったんですか?」
「まあ、そういうこと」
「ええー、そんなん有りですか?ぼくらのあこがれのマドンナをそんなに簡単に。もう羨ましいなあ。それで田中さんもすぐ付き合ってもいいって言ったんですか?」
「うん、そうやよ」
「ええー、そんな簡単なことで付き合ってもらえるの?佐藤さん、ずるいわ、それは、なあT」
「ほんまですか、佐藤さん、それは羨ましいというか、恨めしいというか、それは佐藤さんあんまりにも」
「申し訳ないかもしれんけど、そういうもんやないの、男と女の間というのは、違うかなあ。でも僕の方も、だいぶ前やけど君らが美智子さんと親しく話してるの見てて羨ましかったよ。」
E君が、
「それって、あのお、五年前の夏の合宿のときとかですか?」
「ああ、そうそう、懐かしいね、あの合宿」
「そうすると佐藤さんは五年前から田中さんのことに好意を持ってたというわけですね」
「まあ、そういうことかな」
「でも、佐藤さんは五年前からずっと田中さんのこと、好きだったわけでしょ、それで何もなかったわけ?」
とE君が突っ込む。
「まあ、ほら、ぼく、四年前に就職して二年前に転職もしてバタバタしとったから」
「うーん、納得できひんな。
それで田中さんはそのあいだどう思ってたの?」
「えっ?、わたしのことは内緒」
「怪しいなあ。ぼくのカンは去年の秋までにもなにかあったと言ってる、そうでしょ、佐藤さん、違いますか?」
「うーん、困ったなあ。
E君、なかなか良いとこ突いてくる、ウソは言われへんしなあ。
実は三年前にも二人で会ったことがあったんだけど」
「ほうら、やっぱり」
「ま、そのときは僕の方が悪くて」
「佐藤さん、なんか悪いことしたんですか?」
「いや、真面目は真面目だったんだけど、ほら、僕にとっても美智子さんはマドンナやったからね、気持ちの方が空回りしたのかな。
それっきりだったんや」
「へえ、
田中さんはその時どう思ってたの?」
「えっ、わたし?
そうやねえ、もう昔のことは忘れてしもたわ」
啓一が、
「まあ、いろいろあったのかも知らんけども、そういうこともあるでしょ、結局そのときは僕がなんと言うのかなあ、誠実さが不十分やったのかなあ、と思う。素直になれてなかったのかな、とにかく僕が悪いということ」
と言うと、
E君が、
「でも、それだけですか?ほんとかなあ?」
「それはホント。もうこれ以上出てこないよ、男と女の関係いうのんは、ケースバイケースやけど、大方そんなもんでしょ」
「なんや、よくわからんけど、まあそこは詮索してもしゃあないか」
とT君が言い、
「でも、そしたら偶然去年の秋、駅で会ったことがきっかけですね。そやけど駅でばったり会えてよかったですねえ、そこで会ってなかったら今日はないわけでしょ?」
「うん、ほんまにそうや。そのとおり」
「そりゃ、駅の神様に感謝せなあきませんよ、佐藤さん」
「ほんまに、全くそのとおり、感謝します(笑)」
そのあと、式に来る共通の友人の話、結婚後の住まい、仕事のことなど、またT君、E君の近況なども話して、二次会のことを依頼して散会したが、啓一には彼ら二人の心遣いが有難かった。


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