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「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサル ルビコン以前」/晩成カエサルの統帥と政治(塩野七生の恋)

『ローマ人の物語』も第4巻の「ユリウス・カエサル ルビコン以前」をもって真っただ中の佳境に入ってくる感じになります。
いよいよ英雄ユリウス・カエサルの登場です。

カエサルについては、塩野七生さんはこの第4巻「ルビコン以前」と第5巻「ルビコン以後」の二巻を費やして、詳細に物語を展開しています。

第4巻は、カエサルの幼少期から少年期、青年期を過ぎ、壮年期の40歳にして起つまでと、起った後ガリア全域を完全にローマ支配下に置くまでを描いています。

幼少期、少年期そして青年期

一つはポンペイウスの早成に対して、カエサルの晩成が描かれています。この英雄にして、いや英雄だからこそ30代後半に起ち始め、漸くにして40歳で起つという、ある種人生の妙味というものを感じさせます。
しかし、それは晩成により熟すことによって得られたものという以外に、カエサルの所信の反映という面がこの書では濃厚に描かれています。
ここでも母の力というものを私は感じずにはいられません。そして危機の人間育成力を見ないわけにもいきません。
カエサルは、もって生まれたものに母のすべてを注ぎ込まれ、所信を貫くことで危機と遭遇し一敗地に塗れる、その中でそれまでのローマ人がもつことの無かった戦略思考を獲得していく、そういう姿が描かれていきます。

壮年期「ガリア戦記」と『塩野七生の恋』

そしてローマのトップである執政官を経て、ガリア支配へと赴くのです。史上名高い「ガリア戦記」はその後の歴史の中で志ある人間の心を震わせ続けた書物と言えるでしょう。
それを、思う存分塩野七生さんが健筆をふるって我々の前に鮮やかに示してくれています。
なぜかくも塩野さんは小踊りでもするように記し得ているのでしょうか?
読んでひしひしとそしてビンビンと感じるのは、塩野さんがカエサルに恋をしているということなのではないか、ということです。
実に4巻と5巻で九百頁以上を費やしてその恋を記しています。
女が身も世も無く恋焦がれた男を追いかけるという濃い情感が背景にあるからこそ、このようにカエサルは活き活きとこの世に、我々の前に厳然とその姿を躍動させ続けるのだろうと思わせられました。

ガリアで戦うカエサル、それはまさに男のロマンです。あの時代、男も女もみなカエサルに恋をしたのだろうと思います。
しかしそれゆえ、これ以上は無い嫉妬を受けることになるというのもまたむべなるかな、との感を抱かせられます。
そういうこともカエサルには十全に承知されていて、眼前にガリア人が迫るともローマの政治状況はあますところなく把握し手を打ち続けていきます。

そういうもっともカエサルの生命力が跳ね踊りながら世界史が展開していくさまを我々の前に提示していく塩野さん。

次巻は、いよいよカエサルが運命のルビコンを渡ります。



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