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「小説 雨と水玉(仮題)(44)」/美智子さんの近代 ”一つのイベントの次にまた”

(44)一つイベントの次にまた

夜7時過ぎだったので、美智子は啓一に付いて新大阪まで送って行くこととした。曽根駅に着いて、
「あーあ、よかったあ。ほんまにお疲れ様でした。」と言って啓一の腕に寄り添った。
「うん、お疲れ様でした。お父さんが寅さん好きやなんてびっくりしたなあ。
でも良かったよ、あれで場が和んだもの」
「ええ、わたしもお父さんがあんなに好きだったなんて知らんかったもの、でも二人で通じ合ってて、可笑しかったあ、なんか不思議な感じ」
「いや、気に入ってもらえたようで良かったよ、あんな話が通じるっていうことはよっぽど好きなんやと思うよ、今度来る時はビデオの用意をしといてもらった方がいいかもしれない。は、は、は(笑)」
「ふ、ふ、ふ(笑)、それは覚えておく」

「それから、東京へ行って啓一さんのご両親にご挨拶しないと」
「うん、ありがとう。僕の方は先週、両親に話していて美智子さんに是非会いたいって言ってた。でも大阪の人だと言って来年になるかもしれないとは言っておいた」
「でも出来るだけ早くいかないとウチへは来てもらっているので、わたし」
「うん、ありがとう。そしたら年内でも大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「うん、両親に話してみてまた連絡する。」
「はい」

その晩帰宅するとたか子が来て、
「お姉ちゃん、良かったねえ。おめでとう」
「うん、ありがとう」
「なんやたっけ、あの、お姉ちゃんの、お父さんの娘ですからわがままは言いませんっていうの、かっこよかったわ。ああいうとこ、お姉ちゃんの魅力やなあ、彼氏もニコニコしとったし、お父さんも仕合せそうやった。今日はほんまに良かったな。」
「うん、最初は結構緊張してどうなるかと思ったけど」
「なんか、彼氏とお父さん、波長合ってたなあ、
彼氏、ほんまに少し寅さんに似てるかもしれへんな、お姉ちゃんのことずっと思ってたんやろ五年も。すごいな。それで最初のデートはなんや緊張しすぎて彼氏が一人芝居みたいになって、お姉ちゃんはお姉ちゃんで抜けてるからなんや分からんようになって。まあでも、抜けてるという意味では彼氏も相当やな、ただお姉ちゃんと似たもの同士というところかな。
それから二年半、まあよく偶然会えたなあ、曽根駅で。ほんまに赤い糸ってあるもんなんやなあ。でも、それだけではないわけやろ。わたしが選んであげたワンピースの水玉模様に彼氏が気付いたということがあったからやわな。それであんなびっしり書いた手紙をくれて、お姉ちゃんもほだされたというわけや、やっぱりわたしに感謝してもらわなあかんなあ、お姉ちゃん、そうやろ。
またそんな彼氏と、波長の合うお父さん、なんか不思議な取り合わせ、ちょっと変わった三角形やな、これはこれから面白いとが起きるかもしれへんな」
「あんた、ようそんなにしゃべるなあ、次から次へと。
まあ、ほんまのことかもしれへんけども。
よそ行って言うたり、お父さんお母さんにも言うたりしたら怒るよ、ここだけの話やからね」
「口止め料、よろしくね、もう美味しいもん食べさせてくれたらなんもしゃべりません」
「はいはい」

啓一から日曜の夜、電話があった。
「もしもし美智子です。はい大丈夫です」
「あの、僕の両親やけど、土曜日やったらいつでも大丈夫ということでした。美智子さん仕事のことも早くする必要あるやろから、早くあいさつに来てもらった方がいいのはいいと思うんだけど、どうやろ?」
「はい、もうそれは早い方が。今週とか来週とかでお願いしたけど、一応父に訊いてみます」
「うん、その方がいい、そしたら電話くれるかな?」
「はい」

早速美智子は父に相談したところ、うちにはもう来てもらってるんやから早く啓一さんのご両親にあいさつに行った方がいい、今週すぐに行った方がいい、ということだったので、折り返し啓一に電話し今週土曜日ということで決めた。


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