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「BSテレ東 『男はつらいよ』第十八作『寅次郎純情詩集』」/愛・美智子さんに伝わっていたこと

「寅次郎純情詩集」

マドンナ京マチ子

プチマドンナとして檀ふみが登場しています。冒頭満男の小学校の先生として登場し、例によって寅さんは恋をするのですが、それは前段に置かれています。
再度”とらや”に帰ってきた寅の前に現れたのは、檀ふみ扮する先生の母親、京マチ子。たしかに往年の名女優はアップに耐えてとても美しい。
寅でなくとも、独身とわかれば同年代の男は誰しも恋をするに違いありません。

名家の気品ある美しさ

名家の女性を演じる京マチ子の気品は、まさに名女優。
娘の檀ふみはさらに落ちてきた家の女性として、小学校の先生という立場で知性を感じさせはするがそこまでの気品には届かない。それはそういうものなのだろうと納得すらさせるものがあった。

しかし、病を患い、死期の迫る女性の明るさを名女優は遺憾なく演じる。
檀ふみは、さくらにだけはその死期の迫る母の事情を打ち明ける。

”とらや"での団欒と仕事探し

毎日、京マチ子を訪ね、愉しい時間を過ごす寅。
京マチ子と檀ふみは”とらや”で庶民的な夕食の団欒を過ごすことになる。
そしてマチ子は仕事がしてみたいと。
”とらや”の面々は、ああでもないこうでもないと言い、寅も真剣に提案するがやっぱり何か足りない、、、、あのお店でもない、このお店でもないと。

愉しい日々に突然訪れるマドンナの死

お通夜、告別式が過ぎ、名家は家をたたまざるを得ない状況だった。引っ越しのための片づけをする、檀ふみのところで寅が訪れ、、、
「さくらに聞いたよ、、、、
 俺知ってれば、失礼なことを言わずに済んだのに、、、、
 先生よ、知ってれば俺もっとしてあげれることがあったんじゃねえか?」
「寅さん、母を愛していてくれた?
 間際にね、寅さんのことを話してすぐ会えるわよって言ったら、、、、、
 母、とっても仕合せそうな顔して、、、」
(このあたりセリフと異なるかも)
、、、、、いい場面でした、、、、、

すべてが過ぎ、旅に出る寅、寅の愛

柴又で、見送りのさくらに寅が、
マチ子に、花やをやってもらおうと思っていたと打ち明ける、寅が面倒なことは全て背負い、マチ子にはお店に座って花を包んだりするだけをしてもらい仕合せになってもらうとの意を、告げると、
さくらの目には、いっぱいの涙が、、、、
、、、、ここも本当に名場面です!、、、、

想い出させる美智子さんへの愛

ウソの形を借りた真実の表現

嘘の形でしか表現できない真実というものがある、という言葉は、開高健から聞いたことがあります。
この物語はマドンナの死を媒体にしているためにそのことが表現されているように思います。

美智子さんに伝えることが出来ていたことがあった

男の真情というものは、恋焦がれ心から愛した女性になかなか伝えることが出来るものではありません。
こういう形の寅の愛を突き付けられてみると、私自身はもちろん若き日に恋焦がれ愛し続けた田中美智子(仮名)という女性を思わずにはおられません。
私は、彼女に何を伝えることができたのだろうか、
もちろん求愛はできませんでした、
でもあの梅田のデートのとき彼女が着てきた美しい水玉のワンピースの意味したものが「雨」だとわかった今、
彼女に確かに伝えることができていたことがあったこともわかりました。
(それは小説「雨と水玉」の中で一応触れてはいますが、主題と若干軸ずれがあるので別途記さなければならないかもしれません、、、
いや、やはり「雨の水玉」の中で今後記してみようかと思います)
私が、夢中で動いて実行して、言葉でなく無意識に彼女に伝えようとしていたことは、抽象的に言えば「美しいこと」でした。懸命にその美を美智子さんに伝えようとしていたのでした。そしてそれは私が人生で目指そうとしていたものの一つの表れであったのだろうと思います。つまりあの時点で私と彼女との間に有った事象の中で稚拙な私が選んだうえで彼女のために私はその美しさを精一杯伝えようとしていたのでした。そしてそれは伝わっていたのでした。
それをわかってくれていたなんて、美智子さんはなんという心のたおやかな美しい女性だったのだろうか、と今だからこそ胸が熱くなります。そして三十五年以上の年月を隔ててなお、彼女への愛おしさが胸いっぱいに満ちて来るのを感じます。
それは、私が還暦ほどになるこれまでの人生で精一杯の努力を傾けそしてすべてを賭けて、たとえささやかではあっても、いくばくか成し遂げることができた美しい何ものか、と重なるものだからです。
私には今、あのときに美智子さんに必死で伝えようとしていた美しい何ものかをずっと追いかけ続けてきたのだろうと信じられます。
そして『三十五年越し』の最後に記した「恋はなかば成就したのではないか」と書きましたが、それは結論的に、今節の、美しい何ものかが美智子さんに伝わっていたこと、このことを指しております。



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