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書評

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読書の喜びは、他のなにものにも代えがたい魅力が有ります。そういった喜びを皆さんと共有すべく、知的刺激を受けた書、好奇心満載の書、ためになる書その他この他、わたしの狭い読書領域の中…
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2022年6月の記事一覧

「智子、そして昭和 モノローグ」/第一のモデルは”おしず”、第二は”美智子さん”

 「智子、そして昭和 (1)~(5)」については、本来日本人が仕合せと感じるものへの回帰を書いてみたかったからです。  その題材として、青春の頃こんな自分でも生きる価値があるんだと励まし続け、背中を押し続けてくれた山本周五郎の作品の中から、最もお気に入りの「おたふく」を何をおいても取り上げたかった。そして同じ20代の22から27までの5年ほどのあいだ、恋焦がれ続け、それゆえに実ることの無かった大阪の女性、美智子(仮名、以下同じ)さんへのオマージュを重ねて、「智子、そして昭和

「相分離生物学」(東京化学同人、白木賢太郎)という名の学際領域が拓け、生命科学の技術革新が進む

   「相分離生物学」(白木賢太郎 東京化学同人 2019年)という科学書を読みましたが、近年になく好奇心を刺激される、とても良い書物でした。  なぜ注目されているのか、というと、  最近、相分離生物学の進展によって、生命現象の精緻なメカニズムが分子レベルから細胞レベルを通して明らかにされつつあるということで、  従来、分子生物学(分子原子のサイズ)と細胞生物学(分子の千倍以上大きなサイズ)では相矛盾する部分も多々あり大きなギャップがあったものが、科学的に矛盾解消され

「『私』という男の生涯」(石原慎太郎)

 危機深まる日本のいまを思い、石原慎太郎が亡くなった後を誰か埋めることができるのだろうか、との憂慮が湧いてならない。危機において、国内はもとより海外へ向けての発信能力を十全に持った政治家の貧弱を思い、まさに憂慮に堪えない。  しかし、死後の公開を企図した自叙伝が出版され、ベストセラーになるというのもまた、石原慎太郎をして欣快だろうと思う。読了して、まあ、その値打ちのある一冊かとは思った。  しかし、この男は本当にやりたいことをやりつくした稀有な才能を持つ仕合せな男だったん

「第三次大戦はもう始まっている」(文春新書) 購読のおすすめ

 ウクライナ戦争及びその後の世界を透徹した視線で射抜こうとしています。練達の知恵者、エマニュエルトッドの重篤な危機感がひしひしと伝わってきます。書名がそれを最もよく表現していると言えます。   近々の情勢の推移、歴史、人口動態それに著者畢生の研究である家族構造からウクライナ戦争の意味を解き明かしていきます。著者は70年代に旧ソ連の崩壊を予測し世界を瞠目させたように、これからの世界像を提示して日米欧に警告を鳴らそうとしています。  いわく、この戦争はウクライナ対ロシアの戦争