唇が青いよ、藤木君?~チアノーゼ~
ちびまる子ちゃんの藤木君
唇が紫で有名なキャラクターである。
あのように、皮膚や粘膜が暗紫色になっている状態を「チアノーゼ」と呼ぶ。今回はそんな「チアノーゼ」に関するお話。
ちなみに
何故藤木君の唇が紫なのかについて、以下知恵袋より引用。
『今回はよく健康状態がよくないためとか言われていますが、そうではありません。初期の頃のプールの授業のお話です。体育でプールの授業が終わって皆、タオルにくるまって温まっているのに、なぜか藤木くんだけタオルが見付からず探し回ります。見付けたときは消毒液の中に落ちていて、藤木くんは泣き叫びました。その時、友人から『唇が青いよ』と言われてました。以来、藤木くんの唇は青いままです。』(なぜ藤木くんは唇が青いんですか? - よく健康状態がよくないためとか言われ... - Yahoo!知恵袋)
なぜ青く見えるのか
原因は「赤血球」にある。
この赤血球は、肺で結合した酸素を様々な臓器に運ぶ役割があるのだが、酸素と結合した赤血球は鮮やかな赤色で、酸素が外れた赤血球(正確には還元ヘモグロビン)は吸光度が変わり、暗赤色となる。
動脈(心臓から全身へ送られる血液)では赤血球が酸素と結びついているので赤く、静脈(全身から心臓へ戻る血液)では酸素が外れた赤血球なので暗紫色となる。プールに入った後などで皮膚の色が青いのは、そこだけ酸素が外れた赤血球がたくさんいることを示している。
医学的に(数学が好きな人はぜひ)
チアノーゼは、毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5 g/dl以上になると出現する。通常、動脈血酸素飽和度は約100%、静脈血酸素飽和度は約70%、毛細血管内血液酸素飽和度はその間で約85%程度であり、血中ヘモグロビン濃度の基準値は男性:13.1~16.3g/dL、女性:12.1~14.5g/dL(人間ドック学会)である。私は大体15g/dl前後であることが多いので、毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度は15×(100-85)%=2.25g/dlとなる。
還元ヘモグロビン濃度が5g/dl以上になるのは、15×(100-x)%≧5のときなのでx≒67、つまり毛細血管血酸素飽和度は67%以下になった時である。
血液中の酸素取り込みに問題がある(中枢性チアノーゼ)場合、動脈血酸素飽和度が82%より低下した場合に毛細血管血酸素飽和度が67%を下回りチアノーゼが生じる。血液中の酸素取り込みに問題がない(末梢性チアノーゼ)の場合、毛細血管内の血流が著しく低下し、毛細血管内での酸素放出量が多くなるために酸素飽和度が低下することでチアノーゼが生じる。
※参考:立野滋,チアノーゼについて,Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 95-101 (2015)
原因(中枢性チアノーゼ)
酸素の取り込みに原因があり、血液全体の酸素が少なくなることで、全身にチアノーゼが出るような場合を「中枢性チアノーゼ」と呼ぶ。
酸素が少なるなるのは、肺か心臓に問題があることが多い。肺で酸素がうまく取り込めないと酸素が減るのはイメージしやすいだろう。
心臓が原因となるのは、先天的に心臓に異常がある場合で、基本的に幼いうちに発見されることが多い。肺に行く血管と全身に血液を送る血管は分かれているが、繋がっていたり、逆についていたりすると、血液中の酸素濃度が下がってしまう。具体的にはファロー四徴症、完全大血管転位症、三尖弁閉鎖症、肺動脈閉鎖症などが挙げられる。
心不全
心臓の機能が低下する「心不全」でもチアノーゼは起きるが、心臓から血液を送り出すポンプとしての役割が落ちてしまうことによるもので、手足に十分な血液供給ができず、手足の先が青くなる。基本的に酸素濃度は下がらないことが多い。心不全で酸素濃度が下がる場合、「肺水腫」という病気を合併していることがほとんどで、肺から十分に酸素が取り込めないことが原因だ。
原因(末梢性チアノーゼ)
血液中の酸素濃度に問題はないものの、血液の流れが遅いため、より多くの赤血球が酸素を放出してしまうことが原因だ。
ちなみに各臓器において、全ての赤血球が酸素を放出するわけではなく、酸素と結合し続けている赤血球も多数存在する。血液の流れが遅いと、届く赤血球の数も減るため、酸素を放出する赤血球が増えることになる。
血液の流れが遅くなる原因には、①寒さなどで血管がキュッと縮まっている場合(末梢血管の攣縮)、②心臓の機能が低下し十分な血液を送り出せない場合(上記。心不全の項を参照)、③血がドロドロな場合(血液粘稠度の増加:赤血球増多症など)、④血管が詰まっている場合、などがある。
①末梢血管の攣縮
頻度として1番多いのは、血管が縮まっている場合だ。プールに入って唇が青くなったり、寒いところで手や足の先が紫になったりした経験がある人も多いだろう。これは、体が温まれば自然となおる。
※一般的に血管が細くなると血流速度は速くなる。ホースの先を潰すと出る水の流れが速くなるのとおなじである。ただし、指先のごくごく細い血管は太さ5μm、一方赤血球は7μmである。赤血球は変形できるので赤血球より細い血管を通り抜けることができるが、寒さなどでさらに血管が細くなると抵抗が大きくなり、血流速度が落ちる。
③血液がドロドロ
血がドロドロと聞くと、「玉ねぎは血液をサラサラにする効果が〜」とかの話を連想するがそうではない。また、血の塊ができにくくするための薬(抗血栓薬)を「血をサラサラにする薬」とよく表現するが、その話でもない。ここで言う「血液がドロドロ」とは簡単に言うと、血液中の赤血球濃度が高いような状態を指している。つまり、何らかの原因によって赤血球が過剰になっている場合である。
④血管が詰まっている場合
血管が詰まるものには、動脈が詰まるものと静脈が詰まるものとがある。
動脈が詰まるものには、タバコ等を原因として動脈が閉塞するほど狭くなる「閉塞性動脈硬化症」や、血の塊(血栓)が血管を詰まらせる「血栓性動脈炎」などがある。
静脈が詰まるものには、同じく血の塊が血管をつまらせる「血栓性静脈炎」が多い。
原因(血液性チアノーゼ)
赤血球に異常があり、チアノーゼを起こすこともある。医学的には、「メトヘモグロビン血症」と呼ばれ、遺伝によるものと、薬(中毒)によるものに区別される。
※遺伝性:NADHシトクロム還元酵素欠損により生じる常染色体劣性遺伝。
※中毒性:心臓の治療に使われるニトログリセリンや硝酸イソソルビド、局所麻酔薬として使われるリドカイン、抗生物質であるST合剤などが原因として挙げられる。
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