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分子標的薬各論~BCR-ABL阻害薬~

概要

ヒトには対になった染色体が23組、計46本存在する。この染色体は1番から23番までの番号がついているが、まれに染色体の一部分が、ほかの染色体の一部分と入れかわることがある。これを「転座」と呼ぶ。

慢性骨髄性白血病(CML)患者の白血病細胞において、9番染色体と22番染色体の間における転座が見られることが知られており、この転座した染色体を「Philadelphia染色体(フィラデルフィア染色体)」と呼ぶ。この異常染色体はBCR-ABL融合遺伝子の形成に関与し、BCR-ABL融合遺伝子にコードされたキメラタンパク質(BCR/ABL)は、著しいチロシンキナーゼ活性を持ち、白血病細胞の異常増殖を促す。そのため、このキメラタンパクの作用を抑えるよう作られた薬剤が「BCR-ABL阻害薬」である。なお、なぜフィラデルフィア染色体が形成させるかについては未解明である。また、このチロシ ンキナーゼ阻害薬は膜受容体型チロシンキナーゼであるc-Kitに対しても同様な優れた阻害活性を示すことから、 リガンド非依存的に活性化される異常な c-Kitの発現が主な原因と考えられている難治性の消化管間質腫瘍(GIST)に対しても効果が認められている。

種類

第一世代:イマチニブ(グリベック®)
第二世代:ニロチニブ(タシグナ®)、ダサチニブ(スプリセル®)など

適応症

イマチニブ(グリベック®)
・慢性骨髄性白血病
・KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍
・フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
・FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病

ダサチニブ(スプリセル®)
・慢性骨髄性白血病
・再発又は難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病

ニロチニブ(タシグナ®)
・慢性骨髄性白血病

イマチニブ(グリベック®)

GISTは消化管壁の筋肉層にある特殊な細胞の細胞膜にあるKITまたはPDGFRαというタンパクの異常により起こる。このタンパクは特定の物質の刺激を受けた時だけに細胞増殖のシグナルを伝達するが、異常があると常に増殖シグナルを伝達し続ける。イマチニブはKITあるいはPDGFRα蛋白へのATP結合を抑えることで異常な増殖シグナルを抑え、腫瘍増殖を抑制する。
(副作用)
服用しはじめ:吐き気、下痢。
服用2週間頃:浮腫、発疹、筋肉痛、関節痛、肝障害
服用1か月頃:発熱、貧血、疲労感、

副作用

消化器症状
吐き気・嘔吐、下痢、食欲不振、口内炎など。
皮膚症状
発疹、痒みなど。
体液貯留
むくみ、胸水、腹水、肺水腫など。特にダサチニブではその頻度が高い。
※治療としては、BCR-ABL阻害薬の減量と、ステロイドや利尿剤の併用だが、胸水に対しては柴陥湯(サイカントウ)が著効したという報告もある。体液貯留に効果があるとされる漢方には他に柴苓湯(サイレイトウ)がある。
血液データ異常
肝機能障害、骨髄抑制など。

用語解説

BCR-ABL

Breakpoint cluster region-Abelsonの略。慢性骨髄性白血病(CML)の病態生理学的な要因となるフィラデルフィア染色体(Ph染色体)由来のキメラタンパク質。Ph染色体はCMLの90%以上で見出され、9番染色体長腕(9q34)に座位するABL遺伝子と、22番染色体長腕(22q11)に座位するBCR遺伝子との相互転座によりBCR-ABLキメラ遺伝子が形成される。その結果、チロシンキナーゼ活性の亢進したp210またはp190、p230、p185タンパク質が産生される。(実験医学2010年3月号Vol.28No.4、より引用)

c-kit

レセプター型チロシンキナーゼであるc-kit 遺伝子にコードされた受容体蛋白質のことで、CD117とも呼ばれる。胃や腸の消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞に由来する腫瘍をGIST(ジスト:Gastrointestinal Stromal Tumor)と呼ぶが、このGISTはc-kitを約95%に発現していると言われている。

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