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IBN寮物語—猪俣、見参—

 鹿本、嘉門、北王子という超攻撃的なフォワード陣と一階談話室で会話していると、続々と新入寮生が入ってきた。最後に入ってきた寮生が猪俣であった。
 猪俣は福岡県出身で経済学部に所属しており、髪の毛は茶髪で二重まぶたであり、福岡弁をとにかく話す。猪俣はこれまでの新入寮生の中で最も垢抜けている。ただ、猪俣という名前が示す通り、猪突猛進型の人間で、思ったことをそのまま全力でやってしまうことがあり、その点でやはり変人である。例えば、IBN寮には共同風呂があり、大人が体育座りすれば6人は入れる大風呂がある。その大風呂で湯が沸いているとみるや、大ジャンプで飛び込み、隣の人にかかってしまい、すぐにその人に謝る、というようなことをしてしまう。また、大学の近くに市民プールがあり、その市民プールの海開きの日には、誰も並んでいないにも関わらず、前日から夜通し並んで、当日誰よりも早く、そのプールに大ジャンプで飛び込み、翌日の地方新聞に「海開きで楽しむ人々」というタイトルで猪俣の大ジャンプが掲載されていた。ここまで自分の感情に正直な人間を私は今まで見たことが無かった。
 更に、猪俣は天才という意味でも変人なのである。猪俣と寮内でオセロゲームをする機会があった。猪俣はオセロをしたことがなく、私は小学校時代からちょくちょくやっていた。経験の差は歴然なので、一回目は当然私が勝った。すると、猪俣が「何となく分かった」と言い、もう一度勝負を挑んできた。私はそんな簡単に経験の差は埋まらないのだがと思いつつ、しぶしぶやると、なんと私が負けたのである。その後、私は彼にオセロを何度も挑むが私が勝つことは決して無かった。また、彼はその調子でIBN寮内のオセロ猛者と戦うことになり、IBN寮内で4年間無敗の王者にも勝ってしまう。また、私が大学図書館から「スマリヤンの究極の論理パズル」という本を借りてきて、その論理パズルの問題を解いていたことがあった。その中で、私が2時間かけても解けなかった問題を猪俣に見せると、彼は2分ほどで解いてしまっていた。間違いなく天才である。
 猪俣の猪突猛進型と優れた知性は、サッカーで例えると、普段は二列目で指示を出しているが、突如前線に飛び出してくる司令塔に適した性格ということになるだろう。

 

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