麻雀代走屋②デビュー戦

「すぱろー。少し代わってやれ。」
突如として巡ってきた代走屋デビュー戦だった。

一睡も出来なかったあの夜から半年たったある日のこと。暇さえあれば全て、レートの安い雀荘に行きひたすら強くなることを求めていた私はその日も麻雀をしていた。するとTさんから一本の電話が入る。

「今週末〇〇不動産の社長と麻雀することになった。ついてこい。和菓子が好きだから饅頭用意しとけ。」

いつもと同じように社長をおもてなしする役目としてTさんとYさんに同行した。

どうやら今日の相手は社長とその息子のようだ。饅頭を渡すと上機嫌な社長と息子とYさんでスタートした。レートはハコテン役50000円。ルールは30000点持ち赤2枚ずつ、イーハンありあり。Tさんは麻雀のルールは知っている程度で基本は打たない。むしろ卓がスタートすると途中でいつも外出する。

その日のYさんの成績は散々なものだった。4時間で30万ぐらい負けていた。外出から帰ってきていたTさんが

「すぱろー麻雀するか?」

と言ってきた。心の準備もできていなかったがとっさに出てきた言葉は

「やりたいです!」

だった。

「Y少し休め。すぱろー代わってやれ。」

突如として巡ってきた代走屋デビュー戦だった。勝ちも負けも3割負担という条件を言われた。正直なんでもよかった。半年間麻雀に熱を注いできたチャンスを活かせる時が来た。なぜか不思議と落ち着いていた。

座ってすぐ洗礼と言わんばかりに今日ノッている社長から3巡目親番先制リーチが入り1発でツモ。いきなり倍満12000オールのアガリだ。次局役牌を鳴いて私が息子から4000点の一本場で5000点をアガる。私の親番社長から3巡目リーチが入り程なくしてツモ満貫。

社長62000
私18000
息子親番10000

東3局またしても社長からリーチが入り息子が12000点放銃して終了した。

2半荘目
手が入った。東発親番で息子とのリーチ合戦を制して12000点をロンアガり、次局12000点の一本場13000点を続けて上がった。その次局は社長の1人テンパイで流れて

東2局
親番息子3000点
南家社長32000点
西家私55000点

私は発をポンしてドラ3の満貫テンパイ。しかし8巡目社長からリーチが入る。

これだ!お医者さんは打たなければトップで終わっていたのに自分の手に見惚れてデバサイを打ちトップを逃した。状況を考えて現状の1番必要な行動を取る事。お医者さんは満貫を打てないのであれば降りを検討するべきで1発目に危険牌を切るのは良くない行動なのではないか?

東2局
親番息子3000点
南家社長32000点
西家私55000点

1発目に持ってきたのはション牌の東。ここでの自分の答えは100%の完全降りを決意すること。例え自分がマンガンのテンパイをしていても。

息子は飛びそうなのでリーチに対して押し寄りな行動を取るだろうから放銃して飛ぶ可能性がかなりある。社長のリーチがマンガンやハネマンあるならツモった時点で息子は飛ぶ。自分が降りればかなりの確率でトップが取れそうな状況にある。なのに私が放銃した場合はどうだろう。仮にマンガンだとするなら一本場の9000点放銃。次局の持ち点は

東3局
親番社長42000点
南家私46000点
西家息子3000点

社長のアガリで簡単に捲られてしまう。ということは東2局に息子が高確率で飛ぶ状況にしておくことが1番トップを取れそう。ということで100%の完全降りを選択。間も無く社長がマンガンをツモり半荘が終了した。約40000円のデビュー初トップだった。

ここでYさんと交代した。たった2半荘だったが私にとっては半年間考え抜いた状況判断をしっかり駆使して打てた麻雀に満足した。客観視点を持つ事。それが私の答えだった。他2人がどういう行動を取りそうなのかその人の立場になって考えてみると自分が取るべき行動は自ずと見えてくる。

その日結局大敗したYさんを見て、負けたら何もない、弱かったら何も残らないということを思い知った。

Tさんから給料の9000円を受け取った。9000円は代走屋からしたら大したことのない金額ではあったが私にとってはこのたった9000円が心底嬉しかった。嬉しくてたまらなかった。

吸っていたたばこの煙が目に入りとても痛くてあふれ出そうなものをぬぐった。

つづく

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