麻雀代走屋④恥ずかしくて言えない仕事

「おばあちゃんが倒れて救急車で運ばれたから実家に行く。帰ってきなさい。」

朝8時お袋からの電話だった。しかしその日も代走屋の仕事が入っておりギリギリまで悩んだ結果仕事に行くことにした。大好きだったおばあちゃんが倒れたと聞いて気が気ではなかったが私のいる世界は依頼をもらえてなんぼ。依頼主の信頼が必要不可欠。Tさんには話さず黙って戦場に行くことにした。この日はYさんがいないため私とTさんで向かった。

今日の依頼主は派遣会社の社長だ。なんとこの社長麻雀をほぼ知らない。興味もないらしい。ただ接待ゴルフと同じ感覚で麻雀の場を設けているらしい。自分が打てないので依頼が来るわけだ。この社長からは適当に打って相手をもてなしてほしいと言われ負け額は負担してもらい給料として10万支払うというような依頼をされることもある。しかし今回麻雀は好きに打っていいらしい。

対戦相手の素性は分からなかったが太ったおじさんと中国人?ぽいおじさんだった。レートはハコテン約100000円だった。ルールは赤二枚ずつの花4枚入った30000点持ちイーハンサンマだ。私が打つ中では今までで1番大きなレートだった。

この日私は天和もあがり絶好調だった。
3連勝した次の半荘での出来事。

南1局
親11000点
自分南家21000点
西家58000

5巡目に47sピンフドラ6をテンパイ。ここでの状況判断として重要なのは私は親から12000点をアガると終わってしまうという規制がついていること。私が取った選択は見逃しをしないダマテンだ。

南1局ということもありラス目の親番は押し気味になるため私がリーチを打とうがダマテンにしようが打牌がさほど変わらない可能性がある。ましてやゼンツなら打牌は同じになる。それに対してロンをかけて飛ばすのはダマもリーチも変わらない。強いて言えば少し加点が増えて裏ドラ祝儀をもらえる程度だ。

ツモアガリのケースになるとリーチを打ってもダマテンでも同じバイマンだ。(ツモピンがあるため)

西家はどうだろう。私がリーチを打てばかなり降りる選択をしそうではある。西家からすれば1局消化してくれるのは構わない。ここに大きな差があると感じた。5巡目ならダマテンで西家からのデバサイがある程度見込める。しかしリーチを打つとデバサイ率は極端に下がる。

リーチをしたときとダマにしたときの比較としてリーチをするメリットがほとんどない。西家からのラッキーデバサイを無くすだけでむしろデメリットの要素の方が強そうだ。ただし親から見逃すとラス率も上がるため悠長なことはせず出たらアガるつもりだった。

すると西家がリーチ発声。しかし宣言牌は7sで12000点のデバサイ。たまにこういうラッキーも拾える。その半荘もトップを取り4連勝。結局その日の勝ち額は100万を超えた。初めての帯勝ちだった。私の給料も30万で最高額だった。

帰宅してお袋に電話をかけた。おばあちゃんは心筋梗塞だったらしい。ガキの頃私が寒いといえば自分の毛布をかけてくれて自分は寒いのを我慢し、お袋に叱られている私を見たらあんまり怒るんじゃない!と守ってくれたり、私が転んですり傷を負った程度でも病院に連れていき過度な心配をするおばあちゃん。

私は麻雀において俗に言うデジタル系の考え方で打っていると思う。

しかしこのときは自分が心筋梗塞になりながらも私のことを心配してくれた優しいおばあちゃんが勝たせてくれたのかもしれないと思った。

闘病の末無事退院したおばあちゃんと電話した時に

「病院にいる時すぱちゃんがギャンブルにハマってる夢を見た。やるならほどほどにしておきなさいよ。」

と言われた。大好きなおばあちゃんにはなんでも見透かされてる気がして今日の勝ちの興奮は吹き飛んだ。

自分の現状を言えず嘘ついて電話を切り、悲しくなった18歳夏の出来事。

つづく

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