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Column_解き放つ

いつも聞いている歌の英語の歌詞が、一度ある日本語のフレーズに聞こえてしまうと、もう日本語にしか聞こえなくなる空耳アワー現象。
それまで気にならなかった天井の染みが、ある日、人の顔に見えてしまうと、もう人の顔にしか見えなくなってしまう現象。

脳が一度イメージを認識してしまったものは、逆にそれを取り払うことが難しくなる。

調香の上で、技術や知識、香料原料の香りを新たに学び、記憶していくことはさして難しくはない。
一方、既に自分の中に出来上がっている認識の癖のようなもの、自分では気づくことのできない、外部からの情報を自分の中で歪めてしまう傾向、を取り除くことはとても難しい。

あの時の、あの頃の、あの香り、いい思い出、思い出したくない記憶。

それはパーソナルなものであって、調香師が自分ではないクライアントのための調香をする際には、不要になる。

個人調香の目的は、クライアントの認識の中に出来上がってしまった癖を解き放つこと。
まずは、調香師が自分の認識の癖を知り、解き放っていなければならない。

天然の香料はそれだけで完成された香りのハーモニーを持っている。
それをどう感じてどのようにとらえるかは、各人のパーソナルなことであり良し悪しはない。
しかし、隠れていた認識の癖が炙り出される。

この調香実験室の名前 スニャータは空、ゼロ、の意味。
無に戻ることで現れる、本来の感覚。
そこでは、癖ではない、個人の個性が見えてくる。

既にあるものを手放すことでしか、得られない感覚。
私たちを構築しているものは、癖とは表裏一体。
癖を解くことは、築き上げてきたものも惜しまず放つこと。

癖を解き放つことで本来の個性が現れだすと、苦しみの元であった悩みが、悩みですらなくなることもある。

おそらく、禅宗における瞑想行と似た過程になる。

一朝一夕に起こる変化ではないけれど積み重ねることで一歩一歩本来の自分が現れてくる。


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