じゃりン子チエと現代社会③

3.レイモンド飛田とN国

 レイモンド飛田は、じゃりン子チエに出てくる元ヤクザの地獄組の親分である。レイモンドは、大阪カブの会という賭博を行ったことや警察への暴行により逮捕され、組を解散せざるを得ない状況になる。その後も一攫千金を狙うもののテツによって阻止されている。

 作中に登場するヤクザは、ほとんどがテツと関わりを持つとヤクザから引退し、就職したりなど社会復帰をするが、レイモンドは作中では珍しく自分は大物になれると信じている為か、就職せず、新たな事業を始めるものの失敗に終わっている。当初は、テツと関わると事業が失敗する為、テツを避けようとするが必ずテツに見つかってしまう。それからは、テツを利用して一攫千金を狙うがこれもまた、失敗に終わりテツを恐れるようになる。

 そんなレイモンドが次に始めたのは、市会議員選挙の立候補である。「テツとポリ公(警察)はミミズ以下」を合言葉に選挙演説を行ったのだ。すると、日ごろテツに出会ってしまっただけで殴られたり、現金を取られたりされていたヤクザが集結し後援会まで立ち上げたのだ。結局、選挙には二票差で落選した。投票者は、ヤクザが多かったであろうが、チエちゃんのクラスメイトのヒラメの父親がレイモンドの演説を聞き、「あいつ けっこお面白い奴や」と発言したことからもテツや警察に恨みはないが、面白半分で投票した一般市民もいることだろう。因みに、ヒラメの父親は妻に叱られた為、投票は行っていないようである。

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 このレイモンドと共通点が多いのは、2019年7月21日に行われた第25回参議院議員通常選挙で当選を果たし日本に衝撃を与えた、NHKから国民を守る党(以下N国)である。

 N国がまず注目されるようになったきっかけは、やはり2016年東京都知事選挙に立花孝志氏が立候補した際、NHK放送センターで収録された政見放送で「NHKをぶっ壊す!」と連呼したことだろう。また、YouTubeなどで積極的にNHKの集金を拒む方法などを発信していた。

 レイモンドもまた、当時YouTubeなどなかった為、小学校の前や公園や様々な場所でテツから逃走しながら演説を行っていた。このことから、N国では、NHKの集金に特に苦しんでいない、レイモンドでは、テツや警察と関りがない、一般市民が注目せざる得ない状況を作りだしたのではないだろうか。

 そして、やはり共通点でいえば、N国もレイモンドも簡潔な公約だろう。N国の公式サイトによると「NHKから国民を守る党は、NHK集金人のトラブルを解決するために、集金行為の必要がないNHKのスクランブル放送化の実現」とある。N国が主張している、政策はこれのみである。具体的に、どのようにスクランブル放送化を実現するかなどについては、(私の勉強不足のせいか)見つけることはできなかった。

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 レイモンドは、テツと警察を追放するつもりだったようだが、こちらもまた具体的にどのように実行するのかは、作中では描かれていなかった。しかし、双方とも目的が明確であり、わかりやすい。

 政治と聞くと、小難しい言葉や日常生活であまり関りのないような問題へどのように解決していくのかなどで、近寄りがたいものとなっているのは、じゃりン子チエの世界も現代もそう変わらないのではないだろうか。その中で、このように注目され、わかりやすくまた、日常生活に関りがある問題解決を公約にしているからこそ、N国は第25回参議院選で当選し、レイモンドも僅差の差で落選したのではないだろうか。

最後に

 ここまで、昭和に描かれたじゃりン子チエと現代社会を比較した。ホルモンがまだ一本50円前後だったじゃりン子チエの時代でも、モンスターペアレントや過激な政治家はいたのだ。その他にも、現代との共通点はあるが、それは是非じゃりン子チエワールドに自ら入り込み探してみてはどうだろうか。

 漫画だけではなく、スタジオジブリを宮崎駿監督と共に立ち上げた高畑勲監督の劇場版もある。劇場版では、関西出身の役者や吉本興業所属のお笑いタレントが声優を務めている為、当時の本物の関西弁を聞くことができるのも魅力である。

 また、劇場版公開後にはアニメも製作されていた。既に、じゃりン子チエに魅了された人には、是非関じゃり研サイトを。ホルモンの価額変動やヨシ江が家出した理由など事細かく分析されている。

 この数か月間、新型コロナウィルスで憂鬱な気分な人も多いだろう。そんな頃だからこそ、思いっきり笑顔になれ、また時には感動することができるじゃりン子チエを是非読んで頂きたい。そして、新型コロナウィルスが収束すれば、大阪に来てじゃりン子チエの面影を是非堪能して頂きたい。

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