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LE SSERAFIM/FEARLESS

LE SSERAFIMは旧約聖書の中で天使の最上級階級である熾天使(してんし)として登場するらしい。
神への愛の情熱で身体が燃え盛っているだとか、6枚の羽を有しているだとかのさまざまな謂れがあるようで、それぞれがアイドルという存在をその名の通り偶像的に描くテーマとしてはうってつけだろう。
しかしこのグループのコンセプトとして彼女たちの本質をより表しているのは、LE SSERAFIMをアナグラム化して浮かび上がってくるIM FEARLESSの方だろう。

「the world is my oyster 」はシェイクスピアの劇中のセリフを表題として、もしもこの世界が牡蠣の殻なら、私がこじ開けて見せようと宣言する野心的な曲だ。

「blue flame」は青い炎をまだ目覚めていない胸の奥の淡い欲望と見立て、その隠された情熱に自分が気づいていく心情の変化を書いた曲だ。

「the great mermaid」では童話の人魚姫のストーリーラインになぞって、王子様と結婚できなければ声を失うという呪いをかけられた自らの運命にに抗い、欲しいものは全て手に入れる、私は海の泡にはならないと挑発し、本来のストーリーが持つ受動的な女性像のイメージを拒絶する。

「sour grapes」は、これも童話のすっぱい葡萄がテーマになっていて、「sour grapes」は負け惜しみの意味だ。童話の中では木の上の葡萄がどうしても取れないキツネが、負け惜しみで酸っぱい葡萄と決めつけて自分を正当化するが、この曲では手の届かない葡萄を恋に例えて、手に入れてしまうことへの躊躇を歌う。木の上の葡萄は酸っぱいのではないかと不安になる気持ちを表現している。最後の曲で他の4曲とは少し異なるフィーリングを配置しているのだ。

さて、タイトル曲の「FEARLESS」だが、これもどんな困難が道を阻んでも、それを克服して世界を手中に収めようという意思表明が一見して読み取れるテーマだろう。
しかし、である。

"내 흉짐도 나의 일부라면
私の傷も私の一部なら

겁이 난 없지 없지
怖いものはない ないんだ

"더는 없어 패배
これ以上ないよ 敗北
준비된 내 payback
準備された私のpayback

Bring it 당장 내게
Bring it 今すぐ私に

Mmmm I'm fearless huh

というような自己暗示的な歌詞もあり、ただの怖いもの知らず一辺倒な女性像を歌うだけではなく、メンタルヘルスマネジメントの側面も窺わせるところが非常に今日的であり、だからこそその世界観の強度は垣間見える脆さと反応し合い、確固としたものとなっている。

デビュー曲の歌詞としては、いささかリアリティがありすぎるというか、TWICEがFEEL SPECIALで歌った、スポットライトが当たり続けることへの苦悩をすでに裏テーマとはいえ垣間みせているわけだが、メンバーのうち半分が既に世に出ているということを加味すれば合点がいく。
実際、こういった内容はメンバーそれぞれと話し合った上で決めたようで、煌びやかな世界の陰で負った傷や挫折がさらに自分を強くする、困難の超克、もしくは再出発というところが彼女達の経歴であれば、1番説得力を持つメッセージなのだろう。

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