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介護のポテンシャル 第2回 その3  「介護士の心構え~ベテラン介護士に向けて」

みなさんこんにちは!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

今回は前回の続きで第2回のラストです。
では「その3」早速まいりましょう!

テーマ:『特別養護老人ホームで介護士として働くということ~ベテラン介護士に向けて』
講演:森藤新部長


介護士が目指すべき目標

現在介護業界は未曽有の人手不足に見舞われております。

その人手不足を補うために、国は躍起になって介護職員の処遇改善を図ろうとしています。そして、一連の介護職員処遇改善加算などにより、たぶん10年前の介護職員の給与と比べると今日の介護職員の給与はだいぶ上がっていることは事実です。それでも他の産業分野の従業員と比べるとまだ低いというのが実状ではありますが。

それでは、介護職員の給与がどのくらいになったら、これで十分だと言えるのでしょうか?

先ず単純に考えて思いつくのが、需要と供給の関係から導き出せる水準でしょう。事実これが現在行われている処遇改善の根拠になっている考え方です。介護の人手が足りないから給与を上げることで介護職員を確保しよう、というものです。

これって、意地悪い見方をすると、お金を目の前にぶら下げれば人がくるだろうという極めて単純明快な考え方です。確かにこれはある程度効果があったのかもしれませんね。

しかし、私はこれだけではどうも限界があるのではないかと思っています。

いくらなんでも青天井に給与を引き上げるわけにはいきませんし、介護職員がそういう高給に相応しい仕事をしているのだろうか?という世間の厳しい目に介護職員が応えられるのかという疑問が湧きます。

そこでもう少し別な観点から考察をしてみましょう。今、国は介護職員の給与水準を他の産業の平均的レベルにということを打ち出しています。介護職員処遇改善加算の算定条件に介護職員の給与を440万円以上(1事業所1名以上)に、という条件がつけられているのがその表れです。

しかし、私としてはこの比べる給与水準を漠然と他産業の平均ではなくて、介護職員が具体的にプロフェッショナルとして目標にしやすい職業の給与水準を参考に設定すべきだと考えています。

それが(皆さんもう思いついているかと思いますが)、看護師という職業なのです。

皆さんもご存じのように看護師という職業は誰でも彼でも病院に行って面接に合格すれば、はい明日から看護師としてお勤めください、というふうにはなりませんよね。

看護師になるには難しい試験に合格して看護学校に入学して、厳しい学業を成就してきちんと卒業しさらに看護師の国家試験に合格しないと看護師の資格は得られません。その間には様々な医療知識などだけでなく、看護師になるための心得なども厳しく叩き込まれます。

そういう心得習得の集大成として戴帽式という儀式まで行うくらいですから、看護師の看護師職務に対する自覚はなみなみならぬものがあることは想像に難くありません。

対して介護士という職業を考えてみましょう。

現在介護の仕事をしている介護職員の中には他の職業から転職して初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格など取得し介護の業界に入ってきた人もたくさんおられます。

その過程で自分がこれから携わる仕事は介護の仕事でそれは困っている高齢者を助ける仕事なのだというくらいの認識はあるかもしれませんが、どちらかというと自分が生活をしていくための収入源として数ある職業の中で、たまたま人手不足で採用されやすいこの職業を選んだ、くらいの意識が強いのではありませんか?

これから自分は「福祉」の世界に身を置くのだというちょっと気持ちの引き締まるような思いで面接に臨むような求職者はほとんど見たことがありません。最近は専門学校で介護の学科を専攻し卒業する新卒学生さんの中にもそのような新人職員さんはあまりお目にかかりません。

その学校で学んで得られる資格は「介護福祉士」という資格なのですけれどもね。

つまり「介護福祉士」の役目は、「福祉」という精神基盤を土台とし「介護」という形で日常生活行動を支えることにあるのですけれども。

そうではなくて、どちらかというと、作業としての介護がちゃんとできるだろうかという介護作業の方への関心が強くて、今まで述べてきた、本来の福祉の仕事については考えられていない、忘れられている、ように思えます。

ちょっときつい言い方をしますが、これでは「たかが介護士風情でとても看護師に太刀打ちなどできるものではない」ということになってしまいますよね。

給料で肩を並べるなどそんなおこがましいことなど言えたものではない、というのが関の山でしょうか。ですから、病院などでは看護師にとって介護士はたとえ介護福祉士という資格を持っていたとしても看護助手とか補助看などという位置づけでしか見られていないのが現状でしょう。

しかし、それでもちょっと待ってください。皆さんがもしそういう状況を甘んじて受け入れてしまうなら、皆さんの考える人間の価値という概念が少し偏っているのではありませんか?

たとえば今年は東京でオリンピックがありました。あそこで金メダルを取る人達ってすごいですよね。自分にはとても手が届かないと思ってしまいます。しかし、人間の価値がああいう能力でしか評価されないわけではないことは皆さんご承知のことですよね。

それと同じで、介護士と看護師ではその目指すべき方向というか、能力というか、それは異なっているべきなのです。

では、介護士が追求すべき看護師とはまた異なった能力とはいったい何なのか?

どういう土俵に引っ張り込んだらあの看護師ですら「恐れ入りました」ということになるのか?

そうした介護士独自の土俵を介護士自らの手で作り上げていかなければなりません。

ここでちょっと看護師さんたちにお断りを入れておきます。勝手に看護師を引き合いに出してすみませんね。比べる対象が具体的にあると話しをイメージしやすいのでちょっとの間だけご辛抱、ご勘弁ください。

話しを元に戻します。少し前にお話ししたことを繰り返しますと、介護を受ける人が介護をする人に本当に求めているのは何なのか?

もちろん不自由な身体を援助するいわゆる介護作業は当たり前です。そのための介護保険制度ですからね。では特養に入居している高齢者に食事、排泄、入浴の介助を完璧に行ったとしたら、その人はそれだけで幸福を感じるのでしょうか?

前にも言ったとおり、そんなことで入所者は幸せを感じはしないはずです。

しかし、少なくとも福祉施設である特養においては、入所者が本当に幸福を感じることができるサービスを提供すべきなのではないでしょうか?

そう考えたときに、ひとつの方向性が見えてくるのです。

もうひとつの提案~「QOLの向上」を目指そう!~

最近の介護保険制度改正の中では「ADL(日常生活動作)の向上」のことについてはよく取り上げられています。しかし、日常生活動作の向上にはおのずと限界があります。いくら機能訓練をしようが失われた心身の機能を100%取り戻すことはできません。

そして何より、「ADLの向上」はどちらかというと看護師さんの領分にある概念です。デイサービスなどでの機能訓練指導員になれるのは、看護師はOKですけど、介護福祉士はだめですよね。このことがそれをよく示しています。

ならば、介護士が目指すべきなのは「ADL(日常生活動作)の向上」ではなく、「QOL(生活の質)の向上」ではないでしょうか?

特養の入所者にいかにして「QOLの向上」を達成していただくか?

それこそが介護士のみが関わることのできる専門分野であると私は考えているのです。

すなわち、高齢者の日常生活をトータル的にコーディネートしながらその人の、生活のみならず「人生そのものの質(QOL)」をその人が満足いくまでに引き上げることです(それは多分に精神的な満足ということになるのでしょうが)。

そして、それは、これこれの計画を立てるとかこれこれの指導をするとかというレベルではなく、介護士自身が高齢者に寄り添って一緒になって満足を創り上げていく。そういう役割に入り込む。

それがすなわち介護士独自の土俵ということになるのではないでしょうか。

介護士の目指すべきことは、看護師に近付くことではなく、看護師とは異なる場所にその高みを築いていくことです。

そういう次元の仕事をしているのだということを世間が理解すれば、介護士が看護師と同程度の給与を得ていたとしても誰も文句を言わないのではないでしょうか。

もし、そういうレベルの人が将来、私を介護してくれるというのであれば、今払っている介護保険料が多少値上がりしても納得できるかも。

「特別養護老人ホームで介護士として働くということ」それは「介護という行為を行ないながら、その行為の中に何かを込めて相手にその何かを与えること」そして「入所者が人生の最後にこの施設で過ごせて本当に良かったなあ、と満足し、やがて亡くなっていくこと」。

そうなって初めて「特養は終の棲家」と言えるのではないでしょうか。

入所者が人生で最後に出会った最高にすばらしい人、それが介護士のあなただった!ということになることを願っています。

心身機能が弱まりつつある入所者が日ごろからあなたのことをどう思っているか、ということを知ることはなかなかできません。

でも、もしあなたがそういう介護士になっていれば、その入所者だけではなく、あなたが接する全ての人々が、あなたのそういう人間性を感じ、あなたのまわりのみなさんが幸福になることは間違いないと思っています。

私の述べたいことは以上です。
ありがとうございました。

(終わり)

もうあれです。涙なくしては最後の方、読めません(笑)。
熱く熱~く語っていただいた森藤部長、ありがとうございました!

ではみなさん、また会える日まで、さようなら。

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