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介護保険物語 第9回 その2

毎度!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

お待たせしております「介護保険物語」第9回の続きです。
今回は平成30年度改正事項、共生型サービスの導入!
行政の人たちはわたしたちにどうせいと言うのでありましょうや!?

早速第9回のその2,まいりましょう!

H30年度改正・共生型サービス

藤田 次は平成30年度改正で出てきた「共生型サービス」についてですが、これもなんのことかわからないといけないので、お話の前に少しご紹介ください。

森藤 このインタビューのテーマが「介護保険物語」ということなので、これまでずっと「介護」=高齢者の介護という観点から物事を見つめてきましたが、実は「介護」を必要としているのは何も高齢者だけではありませんよね。

では、高齢者以外の「介護」を必要としている人々のことはどうなっているの?というと、これが障害福祉サービスということになるのです。

障害福祉サービスは高齢者のみが対象となる介護保険事業とは異なり、年齢はそれこそ、児童から高齢者まで幅広く年齢限定なしに対象となります。

ですが当然、障害福祉サービスの対象者も65歳以上になると介護保険の対象者となります。だけれども、物事はそう単純ではなく、これまで障害福祉サービスを受けていた人が65歳になったら、「さあ、あなたは明日からは介護保険適用なので介護保険施設に行ってください」と急に言われても困ってしまいます。また、介護保険施設側としても「明日から、障害福祉サービスを受けていた人が来られますから、よろしく」と言われても、これまた困ってしまいます。

こういった難しさを何とか一つの方向に向けて解決できないか、ということでこの共生型サービスが始まったんですね。

藤田 はああ、なるほど。社会保障制度の原則として保険優先という考え方がありますが、それですね。

<原則、保険優先>
サービス内容や機能から、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、原則介護保険サービスに係る保険給付を優先して受けることになる。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000111533.pdf
<共生型サービス>
本年の介護保険制度の見直しにおいて、介護保険に「共生型サービス」を創設する。障害福祉制度の現行の基準該当の仕組みについても、報酬において障害支援区分を勘案していない等の課題に対応するため、障害福祉制度に「共生型サービス」を創設する。これにより、介護保険又は障害福祉のいずれかの指定を受けた事業所がもう一方の制度における指定を受けやすくする見直しを行う。

具体的には、介護保険又は障害福祉のいずれかの指定を受けている事業が、もう一方の制度における指定も受けやすくなるようにするものであり、各事業所は、地域の高齢者や障害児者のニーズを踏まえて、指定を受けるどうか判断することとなる。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000170288.pdf


ということで、介護保険下のサービス事業所も「共生型サービス」の届出を出せば障害者を受け入れることができるようになったわけですね。

森藤 そうです。これ、考え方としては、たぶん極めて正しい方向性だと思いますが、これがなかなか広まらない。この制度が始まって現在(令和3年6月)まで3年が経ちますが、障害福祉サービスを手掛ける介護保険事業所はあまり増えてはいません。

「共生型サービス」が流行らない理由

藤田 それはどうしてですか?

森藤 その理由として私が思ったのが、高齢者の介護と障害者の介護というのは同じ介護ですが、実は「似て非なるもの」なのではないか、ということです。

私はこれまでずっと高齢者施設での介護サービスしか見てきませんでしたが、高齢者にしても障害者にしても、それぞれ障害を持つ人を介護する、ということのみをもって一括りにはできない部分があるのではないでしょうか。

たとえば高齢者のみを対象に10年介護してきましたという人が、ではすぐに障害者の介護もスムーズに行えるでしょうか?ちょっと介護職の人にきいてみたいものです。また逆に障害者のみを担当してきた人についても同様に思います。

だからこそ、この共生型サービスが始まったとき、これこそ渡りに船とばかりに介護保険事業者がどどっと共生型サービスを導入、というふうにはならなかったのではないかなあ、と思うんです。

藤田 あー、そうか。そういうこともありますかねえ。

森藤 それから、もうひとつ。介護保険事業者といえども、民間事業者である限り、必ずしも利用者の事情を優先して事業展開をするわけではなく、やはり、そこにかかる手間暇的負担や利益がどうなのかということを考えつつ対応していくわけですから、国が描く設計図どおりにはなかなか動いてはくれないでしょうね。

介護保険事業の経営者としては、簡単に言えば、あまり儲からない作業によけいな労力をかけたくない、というところでしょうか。

これまで高齢者介護を専門に行ってきた介護従事者に障害者もということになると、たぶん職員に研修を受けさせたり、そういう体制を新たに作り上げたりと、それなりに苦労があるのではないでしょうか。

介護従事者からみると負担は増えるのに、処遇は変わらないでは余計なことはやりたくない、ということになるわけです。民間事業者としては介護従事者の不満を誘ってまでして新しい試みをやりたくはありませんから。

より良い介護事業所を目指すんだという精神論で介護現場の職員が躍るほど物事は単純ではないのではないですか?民間事業者というのはそういうものではないでしょうか。

藤田 そうかあ。そういうこともあるでしょうね。

大事なところを忘れていやしませんか?

森藤 それとですが、介護保険事業が始まってからずっと思っていたことがあります。

藤田 はあ?なんでしょう?

森藤 行政は、高齢者のことを思ってのことだとは思うんですが、基本的介護業務に加えてこれこれを余分に行ったらこれだけ報酬をつけましょうといろいろ加算をつけたりしていますよね。

その余分なことというのが結構手間暇かかるものだったり、余計な負担になったりする場合もあったり、その割には加算報酬が大した金額ではなかったり、というケースを結構みてきてるわけです。

ですからこの共生型サービスが同じ轍を踏まないよう願ってやまないんですが。

藤田 そうですよねえ。最初のADL加算なんかまさにそれで、1人あたり2単位じゃあ、やる気になりませんよねえ。

森藤 これまでの介護保険法の改正を見てくると、社会的入院、寝たきり老人などに見られる重度の要介護状態の老人をどうするか、という本当はとっても切羽詰まったところから始まったんだけど、介護予防、地域密着型サービス、地域包括ケアシステム、共生型サービスとどんどんいわゆる外へ外へとすそ野を広げているように見受けられますよね。

でも、その一方で当初の重度状態の高齢者問題はどうなっているのか?

世間では今だに、老々介護だの、認認介護だの、介護離職だの、さっきも言いましたが、果ては介護疲れ殺人・自殺、老人の孤独死など、どうも当初の問題が置き去りにされているように感じられてならないんですよ。

藤田 なるほど。そうですねえ。重度の方の問題は措置時代と変わっていない気がしますですものねえ。

次回予告?

森藤 いやね、今回令和3年度の改正はね、そっち(重度介護対策)を目指してる気(け)があるんですよ。

藤田 ほうほうほう。

森藤 いやね、そこにメスを入れて、なんか方向性を見出そうという気(け)が(笑)。ちらほら見える気がします(笑)。

だって今回の改正の目玉ってLIFEじゃないですか?

要はね、特養での介護のあり方というのは、各施設が考えてそれぞれいろいろやってたわけです。措置時代は。そこに介護保険ができて、ケアマネというシステムができて、施設での介護を計画的にやっていこうってなった。それが今回LIFEのシステムができて、実際にどういう風に介護をやっていくべきか、その方向づけをしようとしているのではないか?そう思える節(ふし)(笑)があるんですね。

厚労省の役人さんは実際に現場を見たことがないんですから、わからないんですよね。どういう介護をすればいいのか。だからデータをいっぱい集めて、データで介護の方向づけをしようとしているんじゃないのか。

特養でどういう介護をすればいいのか、探りたい気持ちはよく分かるんですよ。でも問題はね、それで(LIFEで)本当に探れるかどうか?という点ですよ。

藤田 なるほど。そううかがうと、介護保険という船が一応どこかの岸辺にたどり着いた、じゃあこれからどっちの方へ漕ぎ出せば良いのか、それを考えているっていう感じなわけですね。

今までの改正で、介護予防、総合事業の方向でといろいろやってきて、でもそれって予算から見ると全体に比べて微々たるもので、いよいよこれから本丸の改革に乗り出そうとしているということでしょうか。

森藤 まあそれは次回(「介護保険物語」第10回)のお話で(笑)。

藤田 次回はまたまた面白そうですね(笑)。

収録日:2021年6月25日(金)

ということで今回は以上です。
もう1回ラストがあります!ざわざわしながらお待ちあれ!

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