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一芸に秀でる秋の虫(65/100回)

昨夜、寝室で寝ていると枕元でリーンと音がした。
気のせいかと思い放っておいたのだけど、娘が不安がるので電気をつけて音の主を探す。

カーテンをゆすると1センチにも満たない小さなマツムシが、チョロチョロと這い出てきた。
一瞬夏の嫌われ者のあいつかと思い2人でビクッとする。
その瞬間、タイミングを図ったようにマツムシは羽をスッとあげて甲高い音を鳴らす。
小さな体からは想像できない大きく澄んだ音色に思わず息を呑む。

娘は虫嫌いで、小さなバッタにもアリにさえも近寄らない。
なのに綺麗な音に釣られて近くに寄ってくる。

こわばっていた娘の表情もほぐれ、2人でしばらく鑑賞する。
この季節になると鳴き声は耳にするけど、姿を見ることはなかなか無い。
(ついさっきまでコオロギだとばかり思っていた)


ひとしきり鳴いた後、移動を始めた姿はやっぱり怖かったようで、娘は布団の端に逃げてしまった。

そっとティッシュでつまみ、玄関から外に出してやった。

僕は生き物は好きだけど、仏教僧のような慈悲の心は無い。
テリトリー(家)に侵入した外敵は、小さな虫でも容赦はしない。
怖がる娘のためなら鬼にも悪魔にもなる。

それでも演奏会を終えた小さな音楽家を痛めつけることはできない。
また聞かせてねと呟いて部屋に戻る。


得意技を駆使してピンチを脱出する。
漫画みたいな展開に思わず笑ってしまった。


一芸で心を掴んだマツムシには賞賛をあげたいと思う。

自分にもこんな一芸が欲しい。


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