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鍛冶屋の祖父が作った奇妙な金槌が教えてくれること。

僕の工房には鍛冶屋の祖父が作った大きな金槌があります。
それは奇妙な形をしており、とても細長く、まるで突き出た猪の鼻のような形をしています。
とてもバランスが悪いので、祖父の真似をして大きく振りかぶると体がふらついてしまいます。
これを祖父は70になっても軽々と片手で扱っていました。

祖父はなぜこんな扱いにくい金槌を作ったのだろうとずっと不思議に思っていました。
鍛冶屋ならどんな形にでも自在に作れたはずなので、もっとバランスの良い金槌も作れたはずです。


でも作らなかった。


それには何か意味があるのだとずっと考えていました。


僕の仕事でも必要にかられて道具を自作することがあります。
先日、工房を訪れた人が自作の道具をみて「これは一体何に使うものなのですか」と質問されました。
僕は仕事に使うものだという説明をしたのですが、その人は「なぜこんな形になるのか理解できない」
「売っている工具があるのに何故それを使わないの?」と言います。


自分にとってはただ必要だから作ったものですが、他人からすると不思議に思われるようです。
これは作り手にしかわからない微妙な部分なのですが、市販品ではどうしてもしっくりこない部分が出てきます。


だからこそ自作の道具が良いのです。

そのやりとりをしていて、祖父の金槌は鉄を鍛える際にどうしても必要で、自然にこの形になったのだと気がつきました。
要は使いやすさでは無く、仕事のために突き詰めていった結果の形だと言うことです。

祖父はこの重くバランスの悪い金槌を軽々と振り回していました。
決して祖父が今の僕よりも何倍も力があったというわけではなく、毎日毎日使うことで金槌が祖父の体の一部になっていたからあんなに軽々と使いこなせていたのだと思います。

今では簡単にいろんな道具が安く手に入るので、自分に合わせた道具を買い揃えますが、昔はものがなかったので、自分で作るかある物を使いこなすしか方法がなかったのかもしれません。

そう考えると道具だけでなく、どんなことにでも腰を据えて取り組めば、必ず自分のものになるのかもしれません。


自分には合わないからと言って、すぐに捨ててしまうのでは無く、その環境に自分を合わせていくという事も大切なんだと思います。


自分に道具を合わせるな。仕事に必要な道具を作れ。そしてそれを使いこなす技術を身に付けろ。


祖父の金槌からそんなスパルタなメッセージを受け取った気がします。


※画像は祖父の工房です。川沿いの小さな集落にありました。

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