わたモテミステリー小説アンソロ 感想

どうも、ウルトラの叔父です。
先日『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! ミステリー小説アンソロジー』を無事地元の書店で購入できました。
2件お店を回ったのですが取り扱っておらず、泣く泣く更に2店舗に電話で在庫を聞きました。この正式タイトルを一言一句削らずに口頭で伝えるのはさすがに恥ずかしかったです。
しかも最後の店舗に至ってはこの激長タイトルを言い切った挙句に「長すぎてヒットしないので折り返しますね」って言われて悲しみを背負いました。

早速その日の夜に眠くなるまで読もうかと挑みましたが、あまりの面白さに終わり所を見つけることが出来ず、結局最後まで読んでしまいました。
おかげで寝る時には日を跨いでしまったのですが、睡眠欲求よりも「感想書きたい。まだ買えてない人もいるけど我慢できない」という欲求が上回るという事態になったのでコレを書いてる次第です。

当然普段小説はおろか漫画のレビューも書かないので駄文になるのは火を見るより明らかなのですが、読破直後の素直な思いを残すのが趣旨なのでその辺りはお許しください。



各話を語る前に


その前に一つ、前作の小説アンソロと比べての私見を。
私は前作の中ではイッコ先生の話を除けば、夏帆や岡田さんといった原作では第一線とは言えないキャラに焦点を当てた話が特に好きでした。
それぞれの作家さんらの中でのキャラクター像が原作では出番の少ない彼女らをより生き生きとさせ、本当に原作の裏であったようなリアルさが漂う名作です。
それらを踏まえ更にイッコ先生の話を加えると小説アンソロは「原作の地続き・延長線」要素が光る本だと最初に読んだ時は感じました。

一方の今作、ミステリーアンソロはどうでしょう。
ミステリーという縛りもありますが、読後の印象は「極上のパラレルワールド」でした。
恐らくファンの方によっては首を傾げるシーンもあったと確信しますが、多少表現や人物を誇張された方がパラレルワールドとしてよりドラマチックに楽しめる物になると私は思いますし、そこが最後まで読み入ってしまった理由の一つなのかなと。
この辺の原作を超越しかねない匙加減が難しいと思うのですが、今作はライン越えギリギリの絶妙な部分を突いてきているのも評価ポイントです。

ちなみに小説アンソロのあの話は私の中でライン超えてました。

朝の目撃者/昼休みの探偵

イッコ先生の作品なので多くは語りませんが、当然純度100%のわたモテで楽しめました。特に『昼休みの探偵』はスピーディーなトリオ漫才を見ている気分で、収録作品の中で一番スラスラと読み進めながら楽しむことが出来ました。
多分これを漫画でやろうとするとセリフで埋められて絵面的に微妙になりそうで、まさに活字だからこそ出せた漫才感です。
特に「ネットのランプの魔人のやつじゃん!」ってくだりを天丼する所が最高でした。自分が天丼好きなだけなんですけどね(笑)

また前作の小説アンソロもそうですがイッコ先生の作品がトップバッターを飾るとどうしても読む側はハードルをあげてしまうのですが、ミステリー本としてのハードルを下げるのに成功した素晴らしい切り込み隊長だったのではないでしょうか。


絵文字VS絵文字Mk-Ⅱ

先ほどイッコ先生によってミステリー本としてのハードルがグッと下がったと書いたばかりですが、いきなりらしい作品がやってきました。
犯人はポッと出のキャラですがそれ以外はお馴染みのキャストで構成されており、発売前に私が想像していたミステリーアンソロジーに近かったです。
まあ私が発売決定情報を聞いた時、真っ先に思いついたのが〇された被害者役のキバ子だったってのもありますがね(笑)

うっちーが主役ということでドタバタコメディ色こそ強いものの「なぜこんなことになってるのかというと…」という巻き込まれ方主人公のお決まりの導入、さすがに死んではないが意識を失った明確な被害者である初芝、VSと冠しているが二木さんと協力して謎を解いていく終盤。おおすじはよくあるミステリー物です。

その非日常の世界に、雌猫組とのやり取りやらヤンキー組の絡みという日常もチョコチョコ入ってくるのがまた楽しい。
雌猫組がうっちーの二木さんに対する絵文字発言に対し三点リーダー5連打を入れた挙句に凪が「人を絵文字で表す時、人もまた絵文字で表されるのだよ…」と言い放った場面は特に面白かった。
このシーンも活字で表現されていたかららこそ、彼女らが普段からこんなちょい煽りみたいなLINEを送りあっているんだろうなという微笑ましさを感じました。
というかミステリーは枠がしっかりしているだけで、個人的には日常描写やうっちーの内面描写の方がお気に入りだったりします。

なのでトリックというか主人公サイドの発想の切り替えまでも割と王道でで、読んでいて「おっ!?」とはならなかったですが、単純にわたモテでミステリーが出来てるという点で読んでいた時は気になりませんでした。今にして思うとちょっと甘く見ていたかもしれません。

あとうっちーよ。格ゲーってわりとそういうものだと思うぞ!!


踵の下の空白

原作では描かれないゆうちゃんの高校生活をデビューから追っていく作品です。
面白いのはゆうちゃんの高校での人間関係や葛藤が描かれつつ、随所で原作の進行が交錯する点。少し前作の夏帆の話に似ています。
もこっちが何気ないヒントを与えるシーン以外は原作そのままに話が随所で進んでいき、それがまたゆうちゃんの心境変化や彼氏の苛立ちにリンクしてくるので原作と照らし合わすように読みふけることができました。


この話では「見下している」というワードが何度も目に入ります。その気の無いゆうちゃんが、明確な答えを返せないというのが個人的にかなり来ました。
成瀬優という人間が標準装備している底知れぬ優しさは本人にとって覆しようの無いアイデンティティであり、それを否定されたとて今更無くすなんて出来ません。自分が意識なく持つ行動理念に理由を付けろと言われても、わからないとしか言えないと思います。
結果的にこの答えのない優しさが物語の解決に繋がったというのが、読後の清々しさを大きくしていると感じました。

また個性的というよりいい意味で普遍的なオリジナルキャラの面々がとても良く出来ており、それがよりパラレルワールドっぽさを醸し出しています。
特にゆうちゃんが美紀ちゃんに真実を問い詰めるシーンは、原作のちょっとおバカさんなゆうちゃんからは想像の出来ない理詰めや緊張感が漂っており、好きなシーンの一つです。

ミステリーアンソロの中で一番原作にリンクした話だったとはいえこの物語がわたモテ本編のゆうちゃんに繋がっているかと問われれば、正直自分はNOだと思います。
しかしながらゆうちゃんの外伝作品としては、作者様がゆうちゃんというキャラにしっかり寄り添った上で、このようなほぼオリジナルの舞台を完成させたと強く伝わる、これ以上ない位の傑作なのではないでしょうか。

関係ないですが押絵のゆうちゃん、ウサギのぬいぐるみ抱えているのめっちゃ可愛いかったです。


モテないし合コンに行く

この話は前半と後半が明確に分かれており、前半ギャグ後半ミステリーといった所。合コンに行く回は正直本編でいつかやってほしいと初期から思っていたので、先にアンソロで触れてしまうのは勿体ない…。
と読む前は思っていたのですが前半部分の面白さでそれは杞憂だと考えをすぐに改めました。

まずもこっちの再現度がめちゃくちゃ高い。ほとんどの方に伝わらないと思いますが、国定さんのときどさんモノマネくらい上手い。ここでも開幕でイッコ先生の作品を見ていることがプラスに働いている気がします。
もこっちが持つ特有のゲス思想やら謎に満ち溢れる自信やら脳内例えツッコミのキレが凄まじく、単に似ているだけでなく面白さも兼ね備えていていました。小刻みな笑いが何度襲ったことか。

それでいて男子側のぶっ飛び具合は前半のもこっちの再現度から一転して、元祖アンソロジーコミックのような平行世界に舞台が変わったような感触です。
チャラ男もラッパーもバンドマンもちょっとセリフを読んでいて痛々しく、違う世界からやってきたようなこの3人の対処を強いられるのを見てちょっと可愛そうになりました(笑)
でももはや原作ではしばらく無さそうな、この地獄みたいな展開に巻き込まれる高純度クローンもこっちが見れてかなり満足しています。
もこっち自体の再現度が高いからこそ容易に情景の想像が出来たんだと思います。

後半、最初悪戯かと無視していたら段階を踏んで最終的には怪我人まで出てしまう展開で一気にミステリーっぽさが増してきます。前半とのギャップもあってグッと引き込まれてしまいました。
お恥ずかしい話、自分はもこっちが電話するまで犯人が男子側にいるのかと考えて推理してました。
これまでの3話を読んだうえで、原作キャラを犯罪人という汚れ役にするのは難しいんだろうなと勝手に思い込んでいたのが大きいです。

しかし実際は加藤さんが犯人でした。これには賛否両論出ているかと思いますがあえて言います。

こういう加藤さんが見たかったので私は大満足です。

登場初期のミステリアスさ、中期が持つ独占欲から来る怖さ、女狐のような妖艶さをもつ彼女が帰ってきと同時に「ああ、このパターンちゃんとありなんだな」と感心しました。
正直今のわたモテだと犯人にうってつけのキャラがサチくらいしかいないと思っていたので、初期加藤さん特有の「ワンチャン敵側かもしれない」雰囲気を出せていたのは私の中でとてもポイントが高かったです。

ここまでやり切ったので加藤さん補導ENDにしないと有耶無耶感が残るなと読みながら思ってましたが、ラストまた再現度の高いもこっちが面白かったのですぐに忘れました。

またとても個人的な考えですが、男子側のビジュアルも押絵で見たかったです。なんならあたふたするもこっちも添えて。

モテないし一人になる

「これはやられた!」

私のような勘の鈍い人はこれが第一印象だったのではないでしょうか。

クズとメガネと文学少女(偽)で叙述トリックというものが出てきましたが、自分自身普段ミステリー小説を読まないのでこの話が私の人生初叙述トリックでした。確かに古河くんも「!?」と驚きの表情を見せるのも頷けます。
作者様が私の様子を見ていたら、間違いなく守谷のように笑顔になっていたと確信します。

押絵も今にして思うとトリックに一役買ってるのでまんまと騙されました。新規イラストでおーり・棗さん・叶・おねいちゃんが見れたのもファンとしては嬉しいですよね。ニコ作品クロスオーバーと聞いた時は奏愛ちゃんの方が出るのかと想像していましたがボケとコミュ障の渋滞が起こってしまうので辞めたんでしょうか(笑)

客演とはいえ単なるゲスト出現にとどまらず、おーりのおバカ加減は健在で懐かしいものがありました。変に自分を語ってしまったり赤面したりする場面もあり、セリフの多さからも一番気合を入れて描写しているんじゃないかと。今後ニコ作品アンソロジーが出版されるなら、この作者様のクズメガをぜひ読んでみたいです。

ただ、おねいちゃんと叶は落ち着いたキャラなのでちょっとクロスオーバー味は薄いなとも感じていました。しかし棗さんの登場で一気にクズメガコラボからシロイハルコラボにシフトチェンジしたような感覚を受けました。
さすが伝説の漫画の伝説のキャラは格が違う。

というか『シロイハル』が無かったことにされてなかっただけで胸を撫でおろしました。

なおこの話だけはトリックの都合上、読んでる最中に一度ページを戻して色々確認したのですが、おーりとの別れ際がオープンキャンパス帰りのもこっち&ゆりちゃんと被っている演出にその時ようやく気が付きました。これはさすがに怒られる。
しかも「この子は友達がいないんだわ。あの人にそっくり」というセリフからも、ちゃんと考えて呼んでいればサチだと気づいていたのに!という悔しさも滲みだしてきました。TwitterのTL上ではこのトリックに気が付いていたフォロワーさんも何人か見受けられたので、やはり自分の勘の鈍さを再認識することになりました。

ここから余談ですが、『ちょく!』の芹花さんor直が登場しなかったのは意外でした。初期のもこっちが占いを信じる回には芹花さんらしき人物がチラッと映りますし、わたモテと同じガンガンオンライン掲載なので…。
権利のことは詳しくないのですが色々あった『シロイハル』や原作アンソロどちらとも出版社が違う『ライト姉妹』から引っ張ってこれるとは逆に思っていなかったので、オチの前に一つサプライズを受けることになりました。
でも芹花がアクレシオにいるのも想像つかないですし、直は100%ツッコミ側の人間なのでこれまた扱いが難しかったのかもしれませんね。

なお『ナンバーガール』はそもそも未来の話なのでさすがに諦めてました(笑)


あとがき

イッコ先生のあとがきってどうしてこんなに面白いんでしょうか。
皆が気になっていた『シロイハル』に関する話があっただけでもお腹一杯なのに、もはや十八番のような人知を絶する自虐もふんだんに盛り込まれていて笑いが止まりませんでした。

ところでわたモテは考察班のガチさに定評がありますが、イッコ先生が遊ばれたエロゲー4作品の特定が出来るのか気になります。
もし特定できれば先日の二郎ラーメン聖地巡礼よろしく、きっとエロゲを購入したファンの方々のスクショでTLが埋まる地獄絵図になると思います。

総評

結局肯定意見ばかりになってしまいましたが今回のミステリーアンソロは個人的に大満足の出来でした。
ページ数も前作より各段に増えたのでお得感もありますし、どの作品も読みごたえがあってハズレ無しなのはアンソロジーとして大きいです。

ただこれから色んな方の感想を見る予定なので、どんな否定意見があるのかも楽しみにしている自分がいます。
キャラクターが原作のイメージと違うとなるのはある程度予想が尽きますが、本格的にミステリーがお好きな方でしたらトリックに物足りなさを感じたりしたのでしょうか。ちょっと聞いてみたいところです。

それではこんなダメな読書感想文を最後まで読んでいただきありがとうございました!

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