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鹿の刺繍のティシュケース
中川政七商店というお店をご存知だろうか。
和風の雑貨やお洋服など、こじゃれた上質なものをたくさん売っているお店である。大きなショッピングモールにあったり、百貨店のなかにあったりする。使い勝手のいい布巾がカラフルに並んでいたり、文具もあったり。ぶらぶらと見て回っていると心がはずみつつも落ち着くようなそんなお店。雑貨を見て回る幸せたるや。代わりがきかないものだとわたしは思う。
ここに、ぽっちりと小さな鹿を刺繍したシリーズがある。ベージュの麻布にぽっちりと鹿がいる眼鏡ケースを見つけ、リーディンググラス(老眼鏡ともいう)を入れるのにいい感じの眼鏡ケースを探していたわたしは、これだ!と喜び勇んでそれを買った。うあーかわいい。かわいいわぁ。。。
買ったあとも店内を見て回っていると、同じ鹿のシリーズでティシュケースもあった。かわいい。おそろいでこれも買ってしまおうか。考えながら見ていると、うしろから声がかけられた。
「あらー、それかわいいねえ。」
そう。ここは大阪。こういうことはよく起こるのだ。とはいえわりとひさしぶりかな、と思いつつコンプリートストレンジャーなおばさまに返事をする。
「かわいいですよねえ」
「うん。かわいい。それなんぼするの?え!八百円!!八百円もするの?うわー高い。それは高いわ。ちっちゃい刺繍してあるだけやんか。こんなんできるできる。すぐできるわ。あんた、自分で作りなさいや!」
えええ??まじですか???気が弱いわたしは言い返せず、こんなん絶対同じようにはかわいく刺繍できへんよ、、、と思いながらもティシュケースを棚に戻し、すごすごと帰った。
家に帰り、2日たち、3日たちするうちにやはり買えばよかった、、、と後悔の念がわいてきて、わたしは再度、ティシュケースを買いに行った。やっぱりかわいい。それから数年たったが、そのティシュケースはいまも毎日わたしのバッグのなかに入っている。見るたびに嬉しい。手に触れるたびに嬉しい。あのおばさまに負けずに、いや一度は負けたけど負けたままにせず買いに行ってよかった。
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