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真城奈央子というアイドル

2022年2月11日、真城奈央子がXOXO EXTREMEを卒業した。


キスエク加入


まずは真城奈央子の前歴について語っておこうと思う。
彼女は東京大学に在学しており、入学後は「東大娘。」というアイドルコピーサークルにて学内アイドルとして活動を始め、2020年の1月に「よまれよむアイドル」朝ぼらけの紅色は未だ君のうちに壊れずにいる(通称:アサキミ)のメンバーとして、アイドルデビューを果たした。
しかし、グループお披露目後の数ヶ月でコロナ禍に巻き込まれ、他のアイドルと時を同じくして実質的な活動休止へ追い込まれた末に、同年の7月に敢えなく解散へと至ったという過去がある。

そんな彼女がキスエクへと加入したのは2020年の8月である。

この頃のキスエクといえば、グループの"キュート要素"を一手に担っていた「めるたん」こと楠芽瑠が卒業して以来3人体制となり、ダークでかっこいい方向性を模索していた時期とされているが、そこに加入した真城はまさにグループのカンフル剤として強い存在感を放っていた。
加入後には持ち前の努力でめきめきとレパートリーを増やし、加入後2ヶ月足らずにして研修生から正規メンバーに昇格。
ちなみに、他メンバーの小嶋りん、浅水るり、星野瞳々はいずれも昇格まで1年弱の時間を要しており、このスピードでの昇格は異例中の異例であったことがわかる。

同年の11月には加入3か月でバンドセット、新曲5曲披露、シークレットで新メン(めめちゃん)お披露目という、異例づくしの渋谷クアトロワンマンをフルで2時間半やり通し、12月のキスエク4周年ライブでも3時間のステージをこれまたフルでやり通すという目覚ましい活躍を見せた。

また、彼女が加入して以降はグループ内の雰囲気も明らかに向上しており、ステージの上でも、ステージを降りても、グループのムードメーカーとして欠かせない存在となっていた。

生誕ライブ

2021年7月23日に、真城のアイドルとして初めての生誕ライブが挙行された。

ちなみにアサキミの解散ライブを挙行した日は2020年7月23日。この1年前なのである。
彼女の本来の誕生日は7月24日であるが、敢えてその前日に生誕ライブを設けたのは、そんな彼女なりのリベンジの気持ちも強かったという。
もちろん、前年のグループ解散は、本人にとっては不完全燃焼でとても悔しいものだったのは想像に難くないだろう。解散の翌日であった誕生日当日はただ泣いてばかりで、良い想い出は全く無かったという。

そして彼女のソロステージのMCでは、この1年のこと、キスエクに加入してからの事など個人的な心境も吐露しつつ語られ、彼女がこの1年間で固めてきた強い意志には感銘を受けた。

ちなみにこの時の裏話。
俺は彼女のソロステージで光らせる予定だったサイリウムを開演後も他の観客に配布していたのだけれど、出番直前になってアイドルらしき女性が急いで駆け込んできた。それがyumegiwa last girlの夢際伶菜さんだった。
この日、ライブが行われたO-nestに程近い渋谷DESEO miniで、yumegiwa last girlもほぼ同時間帯にライブを行っており、自分の出番が終わると同時にダッシュでこちらまで来てくれたのである。

彼女たち2人は、先述のアサキミで同グループに所属していた、いわば盟友である。
伶菜さんを含め他のメンバーにとっても、前グループの解散劇は不完全燃焼に終わったものであっただろうし(ちなみにアサキミは最終メンバー5人のうち、真城を含む4人がグループの解散後もアイドル活動を継続していた)、真城がステージ上で吐露した想いに関しては、彼女も共感の気持ちを抱いていたのではないだろうか。

その後も順調に活動を続けていたが、2021年12月に卒業の報せが舞い込んできた。

卒業発表

この数ヶ月前からやや体調が優れないといったことは公表されており、ステージ上でも明らかに苦しそうなのがわかるシーンが何度もあったり、この前月の新潟遠征には体調不良を理由に帯同を控えたりと、卒業か活動休止を予感させるような出来事はあった。

さらに、持病のことに加えて、彼女は2022年の春から大学6年生(6年制の学部の最終年)となる身であり、東大の農学部獣医学科というただでさえ多忙な大学生活に加えて将来のことも考えないといけない時期であり、ほぼ毎週末に行われるライブを軸としたアイドル活動との両立には、限界が来てもおかしくはないはずである。

そのため、毎回ステージを見ていた我々からすると、この報せを聴いた瞬間は仕方ないなという気持ちで受け止めた人も多かったように思う。
むしろ、今すぐにでもグループを脱退してもおかしくないギリギリの状態であるにも関わらず、2か月も猶予を持たせた上での「卒業」を決めた彼女の真剣さには頭が下がる想いしか無かったし、出来る限り明るく送り出してあげたいなという気持ちが個人的には強かった。

卒業ライブ

卒業の発表から2ヶ月、その期間は長いようで短く、あっさりやって来た。
共演には、始発待ちアンダーグラウンド、会心ノ一撃、MANACLE、FiDZと、公私ともに仲の良いメンバーのいるグループが選ばれ、更に全曲で1曲ずつコラボするという盛り沢山のステージ構成で行われた。

コラボも全曲素晴らしかったが、始発待ちの「くだらない世界」、会心の「サーチライト」などポジティヴなメッセージで真城にエールを送っているのが強く感じられ、胸に来るものがあった。

中でも白眉だったのが、同じアサキミとしてかつてデビューし、現在はFiDZに所属している大江陽菜ちゃんとのアサキミ楽曲のコラボであった。

アサキミの楽曲はどれも素晴らしいクオリティで、眠らせておくには勿体ないモノばかりだっただけに、今回限りとはいえ披露されたことには思わず声を出して驚いてしまった。

特に、FiDZは前身のメリーバッドエンドから体制を一新して新たに活動を始めたばかりということもあり、この場でそれを披露するチャンスであったにも関わらず、今回のコラボのために貴重な出演枠の半分を割いてくれたことには感謝しか無い。

そして卒業ライブも終盤、XOXO EXTREMEのライブが始まった。これが最期の5人体制という感慨も無く、いつも通りの流麗なライブが続いていく。

終盤の「Ride a Tiger」では、生誕ライブの時と同じく、萌氏に代わって真城が落ちサビのソロパートを担う演出があった。
この曲の落ちサビパートでは、他4人のメンバーが歌唱メンバーを囲むようにしゃがむフォーメーションとなるが、真城が歌唱を始める為そのフォーメーションの中心へと移動する際、「頑張れ」と語りかけているかのような雰囲気で萌氏が真城の肩を叩いて鼓舞していたシーンは見逃せなかった。あれは今でも目に焼き付いている。

そしてアンコールでは、真城を交えての新曲「メグルセカイ」が披露された。
アイドルグループのメンバー卒業ライブでは新曲が披露されることも珍しくないが、その場合は区切りの意味を込めて、該当メンバーを除いた体制で楽曲が披露されることがほとんどだろう。卒業メンバーを含めた体制で初披露の新曲を発表するというのは前代未聞だと思う。

もちろん、今後も続いていくグループとして再出発の意味を込めるということではそこに卒業メンバーは居るべきではないし、身も蓋もないことを言えば、所詮は去るメンバーだ。その場限りでの披露のために練習を重ねるのは、そのメンバーにとっても、残されたメンバーにとっても、全く得策では無いからだ。

しかし、真城奈央子というアイドルは、それを果敢にやりきった。
前述の通り、楽曲を覚えるスピードには定評があった彼女であるが、他グループとのコラボで練習すべき楽曲が他に何曲もあり、時間も体力も限界であっただろうにも関わらずだ。

「メグルセカイ」(巡る世界)というのは、キスエクというアイドルグループの物語そのものを表したタイトルであろう。

時系列としては前後するが、2021年12月に行われたグループの5周年となるライブでは、卒業メンバー2人をゲストに交えてのライブも披露された。

そしてこれを契機として、3年前に脱退した「ちゃんまお」こと小日向まおが、真城の後任メンバーとして2022年3月に再加入することとなった。
地下アイドル界隈というのは色々な事情があるもので、グループを卒業したメンバーがゲストとはいえ再び顔を出すということはなかなか無いことであるし、脱退からの再加入、ましてや巡り巡って3年もの空白を経て再び活動を始めるという事例は皆無に等しいと思う。まさに世界は巡るのだ。

この「メグルセカイ」という楽曲は、真城奈央子というアイドルへのキスエクからのエールに他ならぬ楽曲に違いないし、それに応えた真城も、キスエクのメンバーとして最期の矜持を見せてくれたと改めて思う。

最後に

そして最期には真城のソロステージでHoneyWorksの楽曲「誇り高きアイドル」が披露された。

アイドルの生き様を描いた歌詞には、自身の心境に重なるものがあり、この曲を選んだのだろう。現に彼女も卒業直後に書いたブログで以下のように綴っている。

アイドルとしての日々は輝かしくも苦しむことが沢山ありました。アイドルってどうあるべきなんだろう?と何度も考えて、私なりに出した結論はどんな状況にあっても、どれだけ消耗しようとも目の前のステージに全力を尽くすことでした。今できる最高のパフォーマンスをする。そのパフォーマンスの質を高めるための努力を惜しまない。観てくれる人の心を動かすことが私の最大の目標であり、夢でした。

(中略)

どうせ地下アイドルなんて、お客さんに媚び売って接触でお金を稼いでるしょうもない仕事だと、そう思う人もいます。私はそれが許せなかった。アイドルとしてステージに立つ、お金をいただいてステージを観せる、その覚悟を知らないくせにアイドルを見下すようなことを言う人が大嫌いでした。
私がアイドルになってから、上っ面な情報だけを見て私の存在を否定してくる人たちもいました。東大入ったくせに地下アイドルとか、親に申し訳ないと思わないのか?とか学歴しか売りがない可哀想なアイドルだとか、東大の恥さらしだとか、もっと酷いこともたくさん言われました。でも私は誇りを持ってアイドルをやってました。だってアイドルは私にとってたった一つの"夢"を叶える手段だったから。

地下アイドルという存在の旬は短くて儚い。何年もその活動を続けることは難しい。

ある程度の頻度でアイドル活動をするということは、自身の生活とアイドル活動を天秤に掛けることとなるし、続けるモチベーションを維持することは難しいだろう。
現に今回の真城にとっては夢を取るか現実を取るか、本当に苦渋の決断であったことは間違いない。今後の人生を考えた場合、どちらが正しい選択なのかは正直言って明白だろう。
しかし、それは誰とて責めることでは無い。ここで一区切りを付けるという選択は全くもって間違いでは無いのだ。

私の"夢"は言葉にできない感情をパフォーマンスで表現して、観る人の心を動かすことです。誰かが飲み込んできた言葉を、伝えたいのに伝えられなかった感情を私が表現することでその人の救いになりたい。その"夢"は今も消えてくれそうにありません。色んな感情を抑えて、色んなことに耐えて、なんの希望もなく生きてきた私が唯一見つけた"夢"だから。

たぶんこの"夢"が消えるとき、私も本当の意味で死ぬんだろうなと思います。極端ですけど。それくらいの思いがあります。

いつかまた光り輝くステージに立ちたい。そして"夢"を叶えたいです。この命がある限り。アイドルとしての私は死んでいても、心はまだしっかりと生きています。いつかまたアイドルとして、また命を灯し、"夢"に1歩ずつ近づこうと思います。

私の"夢"への軌跡を、どうかこれからも見届けてください。

こうして真城の夢が一旦幕を閉じることとなった。

先に書いた内容と被るが、先日、キスエクには「ちゃんまお」こと小日向まおが3年越しにグループへの復帰を果たした。これははっきり言って衝撃だった。彼女の脱退後にグループのファンへとなった俺ですら衝撃の復帰劇だったのだから、以前からのファンからすればとんでもない事象だろう。
この出来事が示すように、キスエクはいつでも旧メンバーを受け容れるという前例が出来たと思う。笑

しかし真城奈央子の夢はまだ終わるものでは無い。
まだ長い人生の中で、大学や仕事が落ち着いてから、3年でも5年でも後でも、またアイドル活動を通じて夢を叶えることだって出来ると思う。
それがキスエクであっても、たとえ別のグループであっても、また彼女がステージで歌い踊る瞬間を視られる日が来ることを切に願っている。
それは真城奈央子というアイドルの夢であり人生だと思うから。


P.S.
真城へ。改めて本当にお疲れ様でした。また何処かで逢いましょう。
とりあえずは今年末のキスエク6周年ライブで。笑

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