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(小説)朱黒の鬼模様 序章「劫」の1

劫:1つの世界が誕生し消滅するまでの期間。サンスクリット語ではカルパともいわれる。

星一つない黒い空の下、どこまでも続く乳白色の海。コブラの襟を持つウツボの龍神アナンタシェーシャの上で、やせぎすの黒髪ショートカットの少女墨谷薫は目覚めた。
「お目覚めかな、創造主(デミウルゴス)」
声をかけたのは日本の主神、イザナギノミコトだ。中肉中背、これといって特徴のない顔にブラウンのスーツ姿、手に持つのは世界を創造した槍、天の沼鉾。
「世界が『中断』されたのがよほどショックだったのか、ずいぶん永いこと眠っていたよ」
薫が周りを見渡すと、各国の世界創造に関わる神が並んでいた。
「世界を再起動するかい?」
イザナギの問いに薫ははっきりと答えた。
「無論ですわ」
イザナギをはじめとした神々は深くうなずくと、それぞれの神話にのっとって世界の創造を始めた。
エジプトで大気の神シューが大地の神ヌトと天空の神ゲブを生んでその間に入りナイル川流域を作った。
盤古が中国で、ティアマトが中東で、プルシャがインドで、ガイアが南欧で、ユミルが北欧で。何人もの巨神が天を持ち上げ、体を大地に変えてユーラシア大陸が形作られた。
アメリカ大陸では白い翼蛇ケツァルコアトルと黒い翼蛇テスカトリポカが巨大ワニを倒し、その体からメキシコを作った。南米では太陽の神インティが息子マンコ・カパックにできたばかりの大地に帝国を作るよう言った。
他にもフィンランドでは大気の女神イルマタルが海鳥の卵から天地を作り、アラスカでは海の女神セドナが人間を生んだ。
最後にイザナギの天の沼鉾で海をかき混ぜると、日本列島が形作られた。
それを見た薫はアナンタの背中で眠りについた。その世界の物語を夢に見るために。
「『罪滅ぼし』が終わるまで、世界の創造を止めてはならない」

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