花が咲き誇っていますね

先日、まだ桜が満開だった頃。

ふと思い立って、地元の神社を訪れた。
なんだろう、この落ち着かない、やるせない状況に、
ただただ心がざわついていたからかもしれない。

境内にはお互いに写真をとりあいっこしている老夫婦や、
元気に走り回る子供たち、
なにやら絵馬にお願い事を書き込んでいるカップル。

なんとも心なごむ光景だ。

まずはお参りをして。

それから境内の桜を少しばかり楽しんで
そろそろ帰ろうか、と足をすすめていたら、
「こんにちは」と声をかけられた。

パッと顔を上げると作務衣姿の男性。

あ、宮司さんだ、と気づいて挨拶を返すと。
宮司さんがにこにこ笑ってこう言った。




「花が咲き誇っていますね」

確かに桜が満開だもんなあ、と思って
そうですねえ、と返そうとしたのだけれど、

宮司さんが手で指し示したのは
私の着ていた花柄のロングワンピース。

大小さまざまなお花がプリントされている
私の春のお気に入りの一着。




「あ、本当ですね！｣と私が思わず笑うと

「いいですねえ」と穏和な笑みを浮かべて
ではまた、とゆったり歩いていかれた。





花が咲き誇っていますね、か。



神社に来るにはいささか軽装すぎたかもしれないけれど、
宮司さんの思いがけず優しい言葉に
なんだかホッと心が温まった、そんな日だった。